妊娠中は食事の面でもいろいろな点に注意しなければなりません。妊娠中に食べるとおなかの赤ちゃんに悪影響を与える可能性のある食べ物や飲み物は、極力控えるようにいわれます。その反対に妊娠中に積極的に食べたほうがいいといわれるものもあり、妊娠中は妊娠前とは明らかに食事の面で注意すべきポイントが異なってきます。
大豆イソフラボンを豊富に含む納豆やお豆腐は、健康に良い食べ物の代表ですが、過剰に摂取すると良くないともいわれています。妊婦は納豆を食べていいの?悪いの?と迷っている方に参考になるよう、妊婦が納豆を食べるときに知っておきたいいろいろな情報をご紹介します。
妊婦は納豆を食べていいの?悪いの?
大豆イソフラボンは女性の強い味方。体内で女性ホルモンエストロゲンに似たはたらきをするため、美容や健康のために毎日摂るようにしている方も多いでしょう。女性にお勧めの栄養素を含む納豆は、妊娠中でも積極的に食べたい食材のひとつです。常識的な量を食べる分には、納豆は食べても問題ありません。
納豆にはタンパク質やビタミンB群、鉄分、カルシウムなどの栄養素が含まれていますので、貧血になりやすい妊娠中にはお勧めの食材。妊婦が納豆を食べる効能やメリットについて挙げていきましょう。
妊婦が納豆を食べるときに注意したいポイント
納豆にはさまざまな健康効果があり、妊娠中の健康維持にぜひ取り入れたい食べ物のひとつです。ただし納豆やお豆腐、豆乳などに加えて、大豆イソフラボンが配合されているサプリを同時に摂取することは推奨されません。大豆イソフラボンの過剰摂取には人体に対する悪影響があると報告されているためです。
納豆に含まれる大豆イソフラボンの摂取に関しては守らなければならない注意点があります。納豆に含まれる大豆イソフラボンの過剰摂取にはどのような悪影響があるのでしょうか?
大豆イソフラボンによるメリットとデメリットとは?
大豆イソフラボンにはエストロゲンに似たはたらきがあります。大豆イソフラボンは植物性エストロゲンの一種で、体内に取り込まれるとエストロゲンレセプター(受容体)と結合し、エストロゲンに似た作用が起きます。
このはたらきにより骨粗しょう症や乳がん・前立腺がんといった疾病の予防が期待できますが、その半面乳がんの発症や再発のリスクを高める可能性もあるといわれています。
このように大豆イソフラボンには効能とリスクの両面性がありますが、大豆イソフラボンが人体にもたらす影響に関する研究は現在でも続けられており、これからの研究の成果がますます期待されています。
大豆イソフラボンの摂取に関して
大豆イソフラボンの過剰摂取には一定のリスクがありますが、だからといって納豆やお豆腐などの大豆製品をまったく食べないようにするのは間違い。納豆には健康に良い成分がたくさん含まれていますので、常識的な量を食べる分には問題はありません。
納豆、お豆腐、味噌などの大豆製品は、日本に古くから伝わる伝統食のひとつで、日本人の食卓に欠かすことのできない重要な食べ物です。大豆イソフラボンによる悪影響はサプリメントの普及により、近年新しく生じた問題で、常識的な食べ方で納豆を食べる分にはリスクはないと考えられています。
食品からの大豆イソフラボンの摂取目安
食品安全委員会で設定している大豆イソフラボンの一日の摂取量の目安は、一日70から75mg。納豆に含まれる大豆イソフラボンの量は、1パック(40g~50g)で30mg弱から38mg程度、豆乳は200mlで約52㎎となっています。
ここで設定されている量はより高い安全性を見込んで慎重に設定された数字で、この数字を超えた量を摂取したからといってただちに健康に悪影響が出るわけではありません。繰り返しますが、日本人が伝統食として、納豆やお豆腐を普段の食事メニューの中で食べる分には、リスクは生じないと考えていいでしょう。
イソフラボン含有サプリの摂取上限量について
納豆やお豆腐といった食べ物に加えて、サプリメントを服用する際の一日の摂取上限量は30mgと設置されていますが、これは妊婦や胎児、赤ちゃん、子供以外の方の場合で、妊娠中は食事以外にサプリメントを服用することは推奨されていません。
妊婦が大豆イソフラボンを過剰摂取した場合の悪影響とは?
大豆イソフラボンには遺伝子の構造を正常に保つはたらきのあるトポイソメラーゼⅡという物質を阻害する作用があり、これによりMLL遺伝子の配列に異常が生じるおそれがあります。
MLL遺伝子とは聞きなれない言葉ですが、乳幼児急性骨髄性白血病や急性リンパ白血病に関わる遺伝子です。赤ちゃんのかかる白血病のうちこのMLL遺伝子が関与するものは、赤ちゃんがママのおなかの中にいるうちに生じていると考えられています。
このため妊娠中にはサプリメントとして大豆イソフラボンを摂取することはあまり勧められません。納豆に含まれる大豆イソフラボンには体に良い効果がありますが、妊娠中はサプリメントからではなく、あくまでも納豆やお豆腐、味噌といった食べ物から摂取するようにしましょう。
妊婦が納豆を食べるメリットとは?
ここまで納豆に含まれる栄養素や効能、そして大豆イソフラボンに関する注意点などを挙げてきました。大豆イソフラボンは妊娠中にサプリとして服用するのは控えるべきですが、納豆やお豆腐自体を避ける必要はまったくありません。低脂肪で栄養価の高い納豆は妊婦さんにもお勧めです。妊娠中が納豆を食べるメリットについてまとめてみましょう。
便秘予防・解消効果
便秘はおなかの張りの原因になりますので、妊娠中は便秘予防に努めなければなりません。納豆に含まれる食物繊維で妊娠中の便秘の予防が期待できます。
貧血予防・改善
妊娠中はおなかの赤ちゃんへの血液を供給する必要があり、妊婦の血液循環量は増加します。しかし増加する分のうち、赤血球の増加の割合よりも血漿(液体)の増加の割合がはるかに多いため、血液がいわば薄まった状態になり、貧血気味になる妊婦が少なくありません。納豆1パックには鉄分が約1.5g含まれていますので、妊娠中の貧血予防にぜひ取り入れたい一品です。
免疫力アップ
良質なタンパク質を含む納豆には、免疫力を高めてくれるはたらが期待できます。また発酵食品でもあることから、消化吸収を助け、胃腸の調子を整える手助けをしてくれます。
妊娠中はプロゲステロンのはたらきにより胃腸の機能が弱まりますので、整腸作用のある食べ物はこの点でも妊婦をサポートしてくれます。
納豆の栄養素とは
人間にとって絶対必要な五大栄養素とはタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、これに食物繊維を加えたものを六大栄養素と呼んでいます。納豆はこれら六大栄養素のすべてを含みますので、これ一品ですべての栄養素を満遍なく補給できるというメリットがあります。
また納豆には妊娠中にお勧めの栄養素がたくさん含まれています。良質のタンパク質、ビタミンB2、B6、E、カリウム、カルシウム、鉄分、マグネシウム、食物繊維はもちろんのこと、大豆イソフラボン、ナットウキナーゼ、大豆サポニンなど、妊婦をサポートしてくれる栄養素がいっぱい。妊婦にとってとくに重要な必須栄養素の特徴や効能についてみていきましょう。
良質のタンパク質
納豆には必須アミノ酸9種類がすべて含まれています。必須アミノ酸とは体内で合成することのできないもので、必ず食事により体内に摂取しなければなりません。納豆に含まれるタンパク質は良質といわれるのはこのため。
アミノ酸スコアとは必須アミノ酸をどの程度含んでいるかを示す指数ですが、納豆のアミノ酸指数はなんと100点満点中100点。同じ大豆製品である豆乳やお豆腐同様、アミノ酸のバランスは理想的です。
ビタミンB群
納豆にはビタミンB2、B6、Eが多く含まれています。ビタミンB群は互いに補完しながら作用し合い、免疫力を高め、エネルギーを作り出す手助けをします。
ビタミンB2やB6は皮膚、爪、髪、歯などを健康に保ち、成長を促進。またビタミンEには抗酸化作用があり、脂質が老化することを防ぎます。
大豆イソフラボン
エストロゲン(卵胞ホルモン)に似たはたらきのある大豆イソフラボン。大豆イソフラボンにはさまざまな健康効果があります。大豆イソフラボンがもたらす健康効果とは、骨粗しょう症、前立腺がん、乳がんの予防など。ただし過剰に摂取してしまうと、健康に悪影響をもたらすリスクも生じますので、サプリではなく、食事として適度な量を摂取することが望ましいとされています。
普段の食事で摂取する量程度であれば問題ないとされていますが、妊婦の場合はイソフラボンサプリを摂取することは推奨されていません。イソフラボンのもたらすリスクに関しては、後ほど詳しく挙げていきます。サプリとして摂取することは望ましくないものの、妊婦にとってはぜひ食事に取り入れたい栄養素のひとつです。
カルシウム
カルシウムはおなかの赤ちゃんの骨の形成に絶対欠かせない重要な栄養素。納豆1パックに含まれるカルシウムの量は約40mg。牛乳やヨーグルトなどと比べるとそれほど多くはありませんが、乳製品があまり好きでない方や乳製品アレルギーの妊婦にとってはカルシウムを補給できる便利な食材です。
食物繊維
納豆1パックに含まれる食物繊維の量は約3g。これはニンジン一本に含まれる食物繊維とほぼ同じ量に相当します。
妊娠中は子宮が大きくなるため、胃腸が圧迫されやすく、便秘になりやすい傾向がみられます。食物繊維を豊富に含む納豆は、妊娠中の便秘予防や対処法に役に立ってくれるでしょう。
ナットウキナーゼ
ナットウキナーゼとは、納豆のネバネバ成分であるタンパク質分解酵素で、その主な効能は血栓を予防すること。納豆にしかない酵素です。
納豆が苦手な方にお勧めの食べ方
納豆は好き嫌いが極端に分かれる食べ物で、好きな方にとってはにおいもネバネバも気になりませんが、嫌いな方にとっては苦手を克服するのに工夫と努力が必要なたべもののひとつです。
納豆好きな妊婦さんでもつわりのために一時的に食べられなくなることもあるようですが、納豆は妊娠中の健康をサポートしてくれる力強い食べものです。
納豆があまり好きでない方、つわりで納豆のにおいが我慢できない妊婦でも、食べ方を少し工夫するだけでにおいやねばねばが気にならなくなります。無理に食べなくてもよいですが、納豆を食べやすくする調理法やアイデアについてみていきましょう。
納豆のにおいが気にならない食べ方とは?
納豆のにおいが気になる方は、納豆に混ぜるものを工夫することでにおいを抑える食べ方をお勧めします。からしやねぎを少し大目に入れる、キムチや海苔を入れる、ごま油、オリーブオイル、お酢、ポン酢、大根おろしなどを入れてもにおいが軽減できますので、いろいろな方法を試してみましょう。
においの少ない納豆を選ぶ
納豆のにおいが苦手な方向けに、においを少なく抑えた納豆も市販されていますので、このタイプを選ぶのもひとつの方法です。
加熱して食べる
加熱すると納豆特有のにおいがほとんどなくなり食べやすくなります。てんぷらなどの揚げ物にするとにおいがなくなり、大豆の美味しさが際立ち、納豆の苦手な方でも美味しく食べられます。
また納豆特有のネバネバもなくなりますので、においとネバネバが苦手でそのままでは食べられない方にお勧めの調理法です。納豆チャーハン、納豆ハンバーグなどいつものメニューに納豆をアレンジしてみましょう。
まとめ
妊婦が納豆を食べるときに知っておきたい情報をいろいろとご紹介しました。納豆は日本伝統の発酵食品。タンパク質や鉄分をはじめ、ビタミンB2、B6、E、マグネシウム、カルシウム、カリウムなど、妊婦の健康を支えてくれる栄養素を豊富に含んでいます。
妊娠中の貧血防止にもぜひ役立てたい納豆ですが、食事として摂取することに加えて、大豆イソフラボンサプリを服用することは推奨されませんので注意しましょう。妊娠中に必要な栄養素の補給にぜひ納豆を上手に取り入れてみてください。
※参照 食品安全委員会 大豆イソフラボンとは
※参照 厚生労働省 大豆および大豆イソフラボンに関するQ&A
※参照 食品安全委員会 大豆イソフラボンを含む特定保健用食品3品目の食品健康影響評価について
※参照 農林水産省 大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A