妊婦の血圧と妊娠高血圧症候群について知っておきたいこと

妊婦の血圧と妊娠高血圧症候群について知っておきたいこと 妊娠中

妊娠高血圧症候群、妊娠中に突然起こる高血圧によって引き起こされる症状を指します。妊娠する前は正常だった血圧が妊娠中期以降に高くなりと、母体や胎児にさまざまな悪影響を引き起こします。

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)は早期に発見することが非常に大切といわれています。妊娠中は体の状態のさまざまな変化により高血圧になりやすく、自覚症状のないことがほとんどです。しかし産婦人科での定期健診の際には血圧測定がありますので、現在では妊娠高血圧症候群の兆候が見逃されるということはまずありません。

妊娠高血圧症候群が怖いのは症状が進んでしまうと、母体や胎児に重大な問題が生じること。常位胎盤早期剥離や子癇の他に胎児の発育不全などが引き起こされてしまいます。妊娠高血圧症候群は妊娠中期から発生しますが、妊娠していることが分かったら血圧の状態について十分注意を払うようにしましょう。

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは?

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは?

以前は妊娠中毒症と呼ばれていましたが、現在では医学的な定義が変更され、正式には「妊娠高血圧症候群」と呼ばれています。

妊娠高血圧症候群とは、「妊娠第20週目から分娩後12週目までに高血圧が見られること。」あるいは「高血圧に加えて蛋白尿があること」と定められています。

妊娠中毒症と呼ばれていた時期の三大症状とは、高血圧、蛋白尿、そして浮腫(むくみ)のいずれかでしたが、現在では高血圧及び高血圧を伴う蛋白尿ということで、高血圧を伴わない浮腫は含まれていません。

医学的な定義が変更された理由は、母体及び胎児に悪影響が及ぶのは高血圧が見られる場合のみで、浮腫のみの場合には、重大な問題は発生しないことが判明したためです。

妊娠高血圧症候群の検査 基準

妊娠高血圧症候群の検査 基準

妊娠高血圧症候群にかかっているかどうかの検査は、血圧測定と尿のたんぱくの数値を検査することにより行われます。

具体的には収縮期血圧が140以上、あるいは拡張期血圧が90以上、あるいはその両方が見られる場合に高血圧と判断されます。一度の測定では確定することは出来ませんので、一定の時間を置いて二回以上測定するようにします。

尿検査に関しても同様に精密な検査を行った上で、真の蛋白尿かどうか判断することになります。

妊娠高血圧症候群の原因とは?

妊娠高血圧症候群の原因とは?

妊娠高血圧症候群がなぜ起こるかについてはまだはっきりと解明されていません。妊娠初期の段階において、胎盤の血管が正常な場合とは異なるプロセスで作られるせいではないか、という仮説もあがっていますが、あくまでも仮説にすぎません。

胎盤の作り方や血管に問題があるせいで、母体から胎児への栄養や酸素の供給がうまくいかず、これを調整しようとして、母体自体が無理をして酸素や栄養を胎児に送ろうとすることにより、高血圧が生じるのではないか。これが現在のところ妊娠高血圧症候群の原因としてもっとも有力な説になります。

赤ちゃんへの影響は?

妊娠高血圧症候群の赤ちゃんへの影響

妊娠高血圧症候群は、お母さんだけでなく赤ちゃんにも深刻なリスクを与えます。妊娠高血圧症候群の目安の1つである尿たんぱくが悪化すると、1日5~10gのたんぱく質が尿と共に排出されてしまいます。その分赤ちゃんへ送る栄養が減ってしまうため、赤ちゃんの発育不良や低体重などとなって現れます。

また、お母さんのむくみが強くなれば赤ちゃんに届ける血液量が減ってしまいますが、血液には栄養だけでなく酸素も含まれているため、症状が酷くなれば低酸素による脳疾患発症の可能性も出てくるでしょう。

もちろん妊娠高血圧症候群になってしまったお母さんの赤ちゃんが全員こうなるわけではありませんが、なるべく血圧を抑えて赤ちゃんへの負担を軽くしてあげるのが大事です。

妊娠高血圧症候群の起こる時期

妊娠高血圧症候群の起こる時期

妊娠高血圧症候群の定義にあるように、妊娠20週目(妊娠6ヵ月)から分娩後12週目までに起こる高血圧は、母体や胎児に悪影響を及ぼします。

妊娠高血圧症候群はあくまでも妊娠の中期以降に高血圧が見られることで、妊娠する前から高血圧の方に関しては、別の呼び名「高血圧合併妊娠」が用いられています。

妊娠高血圧症候群にかかりやすい人とは?

年齢の関係

年齢の関係

妊娠の年齢によっても、妊娠高血圧症候群の発症率は変わってきます。例えば、女性の年齢が35歳以上から発症率が上昇し、40歳以上になると高い確率で発症するとされています。

では若ければ大丈夫なのかといえば、そうでもありません。妊娠が15歳以下という極端に若い年齢であっても、妊娠高血圧症候群は発症しやすくなるのです。

体型の関係

体型の関係

年齢だけでなく、体型においても妊娠高血圧症候群の発症率は変わってきます。例えば、BMIの数値が高い肥満体型の人の場合、妊娠高血圧症候群にかかりやすいとされています。

妊娠すると、身体が栄養を欲して食欲を増幅させるため、短期間で急激に太ってしまった人は注意しましょう。急激な体重の増加は、妊娠高血圧症候群を引き起こしやすく、心臓にも負担がかかります。

痩せすぎも良くない

妊娠高血圧症候群は、太っているほど発症しやすいとされています。では、痩せていれば問題ないと思われがちですが、痩せすぎの人も注意が必要です。

筋肉や脂肪が少ないことから、多くの栄養を胎児が吸収しようとするため、身体が疲れやすく負担が大きくなるからです。身を削るように栄養を送ってしまうため、妊娠高血圧症候群を発症しやすくなります。

初産婦

初産婦

初めて妊娠をした人を初産婦といいます。初産婦の方は、妊婦の体に変わるときにストレスを感じやすく身体もうまくコントロールできません。このことから、妊娠高血圧症候群を発症しやすくなります。もし、初産婦で妊娠高血圧症候群を経験した場合、次の妊娠も同じ経験をする可能性が高くなるでしょう。

多胎妊娠の人

多胎妊娠の人

胎児が1人ではなく、複数いる場合も母体に負担がかかりやすくなります。多胎妊娠の場合、複数の胎児に栄養を送ろうと、身体をフル活動させようとしてしまうため、内蔵や心臓が疲労し、妊娠高血圧症候群を発症しやすくなります。

妊娠高血圧症候群の再発のリスク

妊娠高血圧症候群の再発のリスク

前回の妊娠で妊娠高血圧症候群にかかってしまった方は、次回以降の妊娠における再発のリスクが高いといわれています。前回の妊娠において、妊娠高血圧ではなかったものの、妊娠初期から血圧がやや高かった方も注意しなければなりません。

前回妊娠高血圧症を経験された方は、妊娠が確定したらその旨を必ず医師に伝えるようにしましょう。

病気や感染症

病気や感染症

腎臓病や高血圧、糖尿病などの疾患を抱えている方です。最近クローズアップされているのが歯周病などの感染症。これらに感染している人も妊娠高血圧症候群にかかりやすいのではと指摘されています。

遺伝的な要素

遺伝的な要素

遺伝的な要因に関しても多少の影響は免れないということで、家族に高血圧や妊娠高血圧症候群にかかったことがある人はそうでない人よりも妊娠高血圧症候群にかかりやすいようです。 妊娠が判明したらことさら体調に注意するようにしてください。

ストレスの関係

ストレスの関係

ストレスをたくさん抱えている人も、妊娠高血圧症候群を発症しやすくなります。妊娠初期の頃は、体の変化に戸惑うことも多く、今までできていたことが一切できなくなるなど、日常生活の中でストレスを抱えがちになってしまいます。

また、仕事を続けながら妊婦ライフを送っている方は、どうしても職場の人間関係でストレスを溜めがちです。ストレスは自律神経を乱れさせて腎臓や心臓の機能を低下させます。あまりにもハードな日が続くと、流産の危険性も招いてしまうので、ストレスを溜めこまないように注意しましょう。

マタニティブルーの関係

マタニティブルーの関係

マタニティブルーとは、精神的にうつ状態になっている妊婦のことをさします。出産の不安や体調管理の難しさから、ひとりで気持ちをふさぎ込み、うつ状態になってしまうのです。

気持ちの不安定さが自律神経やホルモンバランスを更に乱してしまいますし、マタニティブルーになると運動など活発な動きをしなくなります。動かないことで消費カロリーが減り、体脂肪も増えてしまうため、妊娠高血圧症候群の危険性が増してしまうのです。

妊娠高血圧症候群を予防するには

妊娠高血圧症候群を予防するには

妊娠高血圧症候群を予防するのは、さまざまな原因が重なりあう場合もありますので、今のところ難しいとされています。

ただし、妊娠前からの高血圧症に関しては、妊娠高血圧症候群にかかる可能性が高くなりますので、妊娠を希望されている方は、日頃から健康状態に注意を払い、高血圧症を発症させないようにしましょう。

またBMI数値が高い肥満の人も妊娠高血圧症候群に陥りやすいグループの一員ですので、肥満予防も心がけるようにしましょう。基本は生活習慣を意識して、食事やストレスの改善をし体調管理してください。

妊娠高血圧症候群の症状について

妊娠高血圧症候群の症状について

妊娠中期に入り、高血圧の症状を感じたら定期健診の際に必ずその旨意志に伝えるようにしましょう。高血圧には自覚症状がないことがほとんどですが、眠気や倦怠感、頭痛などがひどい場合は高血圧が疑われます。

ただし妊娠中やホルモン分泌が活発なせいで、常に眠気やだるさを覚える方も多いので、妊婦さんが自分だけで判断することは難しいかもしれません。

妊娠高血圧症候群は早期に発見することにより、適切な治療を行うことが可能になります。妊娠中期にさしかかったら、ちょっとした体調の変化も見逃さないようにし、何か異常な点に気付いたら即座に病院に連絡できるようにしておきましょう。

子癇(しかん)について

子癇(しかん)について

妊娠高血圧症候群の中でもっとも深刻な症状の一つが「子癇」です。子癇とは妊娠20週目以降の妊婦さんが、急激に高血圧に襲われることにより、けいれんや意識不明の状態に陥ることを指します。

子癇は妊娠後期だけでなく分娩中に起こることもあります。最悪の場合は脳出血に至り、胎児を緊急的に取り出す手術が行われます。

子癇の兆候として挙げられるのは、激しい頭痛が止まらないことや目の奥で火花が散っているかのような感覚を覚えること、急に視力がなくなったかのように感じることなどです。

子癇は妊娠高血圧症候群が引き起こす最悪の症状ですが、適切な治療を続けていれば通常ここまで重症になることはありません。妊娠高血圧症候群と診断されたら、主治医の指示に正確に従い、症状の軽減に努めましょう。

常位胎盤早期剥離について

常位胎盤早期剥離について

常位胎盤早期剥離とは分娩が起こる前に、胎盤が子宮壁から剥がれ落ちてしまう症状で、母体及び胎児に対して重大な事態を引き起こします。

胎児は胎盤を通して酸素や栄養の供給を得ていますので、胎盤が剥離していまうことにより、脳への酸素供給が止まってしまいます。母体へのリスクとしては大量出血によるショックなどを挙げることが出来ます。

常位胎盤早期剥離の原因を確定することは困難ですが、可能性として挙げられるのが、妊娠高血圧症候群に加えて絨毛羊膜炎や腎炎など。常位胎盤早期剥離の兆候は下腹部痛や張りなどですが、軽症の場合には自覚症状がないこともあります。

妊娠高血圧症候群と診断されたら、赤ちゃんの胎動チェックを欠かさずに行うようにし、少しでも異常を感じたら病院に連絡するようにしましょう。

HELLP症候群とは

HELLP症候群とは

HELLP症候群とは妊娠末期から分娩後にかけて起こる症状で、血液の凝固障害や母体の臓器にダメージを引き起こす深刻な症候です。HELLP症候群の主な特徴は、血液中の赤血球が破壊されること、血小板の数が減少すること、そして肝臓機能障害の三つになります。

妊娠中のHELLP症候群は、妊娠高血圧症候群となんらかの形で関わりがあると考えられていますが、まだ確定的なことは検証されていません。

ただし妊娠高血圧症候群の妊婦さんがHELLP症候群にかかる割合は、そうでない人よりも多いので注意が必要です。兆候としてはお腹上部の痛みや嘔吐感など、兆候だけでは判断できないので精密検査を受ける必要があります。

浮腫(むくみ)について

浮腫(むくみ)について

妊娠中毒症と呼ばれていた時代には、妊娠中期・後期の浮腫(むくみ)に関しても問題とされていましたが、日本産科婦人科学会の定義が変わり、現在では高血圧を伴わない浮腫に関しては除外されています。

浮腫は妊婦さんのうち約三割程度の人が経験するもので、とくに心配する必要はありませんが、顔全体がむくんでしまったり、指輪がはずせなくなる、手足に激しい痛みが生じるなど問題が生じるようであれば、早めに医師に連絡するようにしましょう。

妊娠高血圧症候群の治療法について

妊娠高血圧症候群の治療は一人一人の妊婦さんの状態によって異なる方法が取られます。具体的な治療方法は妊娠週や胎児の成長具合、高血圧の数値などにより、主治医が総合的に判断して決めます。

高血圧の症状が軽症の場合は安静にすることと、食事の内容を制限する食事療法が中心になります。高血圧の数値が高く食事療法だけでは不十分な場合には投薬による治療が取られます。

食事療法による治療について

食事療法による治療について

食事の内容を制限する治療法とは、まず一日に摂取してよいカロリー量を定めること、塩分の量を控えること、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取ることなど。また血圧の不意の上昇を避けるために、安静が勧められます。

高血圧の症状が軽症で投薬の必要もないほどであれば、通院しながらの治療を続けることになり入院は必要ありません。

投薬による治療について

投薬による治療について

食事の内容の制限やカロリーコントロールだけでは、血圧の数値が下がらずに、そのままにしておくと母体や胎児に悪影響が及ぶと判断されると、投薬による治療が試みられます。

降圧薬の使用は母体や胎児の様子を十分に観察した上で、主治医の判断で用いられます。この際も急激な血圧の下降は胎児に重大な影響を引き起こすことがあるため、徐々に血圧を下げていくことになります。

妊娠高血圧症の方の出産

妊娠高血圧症の方の出産

妊娠高血圧症の方の場合、症状が急激に悪化したり、けいれんに襲われたら、緊急的に帝王切開で胎児を取り出す必要に迫られます。

また子癇などの重大な事態に陥った場合には、産婦人科医以外の医師が必要になることもあります。妊娠高血圧症候群の方は、最新の医学施設が整った病院で出産に臨む必要があります。

帝王切開が必要かどうかの判断

帝王切開が必要かどうかの判断は、妊婦さん一人一人の状態を見て判断されます。高血圧症の進行状態や胎児の状態、妊娠週などすべての要素を考慮に入れて決められます。

症状が軽い妊婦さんの場合、帝王切開ではなく膣分娩での出産が選択されることもありますが、分娩中に緊急事態が発生したらその場で緊急帝王切開が行われることになります。

分娩後に注意したいこと

分娩後に注意したいこと

高血圧の症状が比較的軽かった方は、分娩後は自然に症状が改善されていくことも多いのですが、念のため分娩後も定期的な血圧や蛋白尿のチェックを行わなければなりません。

出産後も血圧が高い場合には医師の判断により降圧薬などの薬を服用するとともに、食生活に気を配り、高血圧が習慣化しないよう注意しなければなりません。

妊娠高血圧症候群と生活習慣病

妊娠高血圧症候群と生活習慣病

医学的な統計によると、妊娠高血圧症候群にかかった人はそうでない人に比べて、その後糖尿病などの生活習慣病にかかる確率がやや高いとされています。

出産後は毎日の食事や生活習慣に注意し、出来るだけ早いうちに血圧を正常値に戻すように努力することが求められています。

産後高血圧とは

産後高血圧とは

妊娠高血圧症候群であっても、出産後は自然と血圧が下がります。しかし、中には産後12週を超えても血圧が下がらなかったり、妊娠中は問題なくとも産後に血圧が上がってしまうケースがあり、それを産後高血圧と呼びます。

原因は様々で、何らかの理由で血圧降下が遅れている・体力が回復しない・ストレスが溜まっている・元々高血圧要因を持っている・病気によるもの、などが挙げられます。

特に初めての赤ちゃんだと世話に追われて自分のケアが後回しになってしまいますので、余計にストレスや疲労を感じて自律神経が乱れやすく、それが血圧上昇に直結します。産後高血圧と指摘された方は、安静を心がけてください。

まとめ

かつては妊娠中毒症と呼ばれていた、妊婦さんの高血圧に伴う諸症状についてご紹介しました。高齢出産が増える中、妊娠高血圧症候群はますます増加する傾向にあります。

妊娠高血圧症候群は軽症であれば、摂取カロリーを制限するだけの食事療法で十分対応できますが、重症になると母体や胎児に深刻な問題を引き起こしかねない、怖い症状です。

妊娠中はもちろんのこと、妊活中の方も毎日の健康管理に気を配り、出来るだけストレスを溜めず、高血圧症になりにくい体を目指しましょう。

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