妊娠中は母体の健康のためにも、またおなかの赤ちゃんの安全のためにも、食べるものや飲むものに細心の注意を払わなければなりません。妊娠前に普通に食べたり、飲んだりしていたものでも、妊娠中にはNGなものがたくさんあります。
お酒も妊娠中に摂取してはいけない飲み物のひとつ。妊娠中、とくに妊娠超初期から妊娠初期にかけては、おなかの赤ちゃんの臓器や器官が形成される大切な時期。この時期に飲酒することは、おなかの赤ちゃんの先天性異常のリスクを増大させます。
今回は妊娠超初期から妊娠初期の飲酒について、おなかの赤ちゃんに与える影響の有無や注意点などについて、いろいろな情報を幅広くご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
妊娠中の飲酒がもたらす悪影響について
健康な成人の方であっても、アルコールの飲み方に配慮できていない場合には一定のリスクがあります。ごく少量をときおり摂取する分には、緊張をほぐすリラックス効果がありますが、大量のアルコールを日常的に摂取することには、健康上のリスクが伴います。
健康な成人女性で妊娠していない状態であれば、たまに適度の量のアルコールを口にすることには、それほど重大なリスクではない、と考えられています。しかし妊娠中の女性に関してはまったく別問題。妊娠中の飲酒は、おなかの赤ちゃんに深刻な影響を与える可能性があるため、絶対に避けるべきといわれています。
妊娠中の飲酒がもたらすもっとも深刻なリスクは、胎児性アルコール症候群にあります。胎児性アルコール症候群には、現在のところ治療法がなく、どの程度の量を摂取すると発症するのか、といった詳しいデータも得られていません。
どの程度の量ならば飲んでいいかといった許容範囲や、妊娠中のどの時期であれば飲んでもさしつかえないという基準が分かっていません。したがって妊娠中の全期間を通じて、飲酒をすべきではない、ということが原則になります。※参照1
飲酒の時期が赤ちゃんに与える影響について
妊婦さんが飲酒した時期によって、おなかの赤ちゃんが受ける症状には違いがあるとされています。妊娠中の飲酒の時期と胎児の異常との相関関係についてみていきましょう。
妊娠超初期に飲酒した場合
妊娠超初期とは、病院での診察・検査により、妊娠が医学的に判明する前の時期を指します。具体的には受精・着床が起こる時期に相応しますが、妊娠超初期にはまだ胎のうも確認されず、妊娠していることを確実に知ることはできません。
妊婦さんの中には妊娠したと分かったときから、お酒を飲まないようにすればいいのでは?と考える方もいるようですが、妊娠超初期の飲酒が絶対に安全である、というエビデンスはありません。
妊娠超初期の場合、着床が完了する前には、薬の影響を受ける可能性はないといわれていますが、一体いつの時点で着床が完了したのか、この点を正確に判断するのは困難です。
おなかの赤ちゃんに対してリスクのあることは、いかなる場合でも避けることが大切。妊娠を希望している女性は、飲酒や喫煙に対する考えを見直し、妊娠前からできるだけお酒を控えるようにしたほうが安心です。
妊娠初期に飲酒した場合
妊娠初期の最初の2ヶ月間は胎児の器官や臓器が形成される大事な時期であり、薬に対する影響をもっとも受けやすい絶対過敏期と呼ばれています。
これは薬だけでなく、アルコールに関しても同様で、妊娠後期に比べると、妊娠初期に飲酒した場合のほうが、よりリスクが高いといわれています。妊娠初期は妊娠中に服用できない薬だけでなく、アルコール、タバコの摂取も絶対に控えなければなりません。
妊娠初期にお母さんが飲酒した場合、おなかの赤ちゃんの器官に奇形が生じるリスクが高いといわれています。
妊娠中・後期に飲酒した場合
飲酒がおなかの赤ちゃんに悪影響を与えるのは、妊娠初期だけに限ったことではありません。妊娠中期・後期のお母さんが飲酒した場合にリスクが高まるのは、胎児の発育不全や中枢神経の異常など。妊娠中期・後期にも引き続き、飲酒しないことが大切です。
妊娠初期の飲酒の許容量とは?絶対安全な量はない?
妊娠初期の飲酒に関して、このくらいの量であればまず問題ない、おなかの赤ちゃんに影響は及ばないであろう、という許容量は一切存在しません。傾向としては、少量を長期間にわたって摂取するよりも、たくさんの量を短期間に摂取したほうがリスクが高まる、といわれています。
また習慣的に大量のアルコールを摂取している方、アルコール依存症の妊婦さんの場合、おなかの赤ちゃんが胎児性アルコール症候群にかかるリスクは増大します。超妊娠初期であれ、妊娠中後期であれ、たくさんの量を摂取することは、回数や期間にかかわらず絶対にやめましょう。
妊娠初期に少量のアルコールを飲むこと
少量であれば妊娠初期でも飲酒していいの?という問題に関しては、残念ながら絶対に安全な許容範囲は示されていません。大量のアルコールを長期間にわたって摂取した場合、おなかの赤ちゃんに悪影響が及ぶ可能性が高いことは知られています。
しかしそれと同時に、ごく少量を摂取したにもかかわらず、赤ちゃんが胎児性アルコール症候群にかかった、というケースもあります。妊婦さんは摂取するアルコールの量がいかに少なくとも、赤ちゃんへのリスクがあることをはっきり理解しておく必要があります。
妊婦さんが飲んだアルコールは、胎盤をとおしてそのままおなかの赤ちゃんに伝わります。おなかの赤ちゃんには、アルコールを分解する機能が備わっていませんので、アルコールの及ぼす害が直接赤ちゃんに向けられます。
妊娠中のお母さんの飲酒は、赤ちゃんに無理やりお酒を飲ませているのと同じ。体の小さい赤ちゃんにとっては、ごく微量のアルコールでも致命的なリスクになることを肝に命じておきましょう。
アルコール摂取量とリスク 自己責任
アルコールの摂取量と胎児へのリスクに関して、一般的に挙げられる数字として、一日アルコール15ml未満というものがあります。一日の摂取量がこれ未満であれば胎児への影響は少ない、といわれています。アルコール15mmを具体的にあらわすと、ビール一缶(350ml)、ワイングラス一杯、日本酒コップ半分になります。
しかしながら実際のところは、一日15mlよりも少ない量の摂取で、赤ちゃんが胎児性アルコール症候群にかかった例も報告されていますので、この数字を許容範囲と考えるのは問題です。アルコール60mlから90mlを毎日ではなく、ときおり飲んでいた場合でも、赤ちゃんが胎児性アルコール症候群にかかった例があります。この例からみると、毎日15ml未満でもリスクがあることに。
一日のアルコール摂取量15mlという数字を鵜呑みにするのはリスクを伴う、この点をしっかり把握しておくようにしましょう。摂取量の許容範囲が分かっていないだけでなく、胎児性アルコール症候群には有効な治療法が一切ありません。
妊娠超初期に飲酒したあとに妊娠が発覚した場合
妊娠する前、ちょうど妊娠超初期に当たる時期に飲酒したあと、妊娠していることが発覚した場合は、どのように対応すればいいのでしょうか?
妊娠超初期とは、次の生理予定日の前後を指します。これはちょうど受精・着床が起こる頃で、この時期に妊娠の兆候に気づく方はあまりいないといえるでしょう。まさか妊娠しているとは思わずに、妊娠超初期に飲酒してしまったものの、その後妊娠していることに気づいた場合は、その時点で即刻飲酒をやめましょう。
妊娠超初期に飲酒してしまった、とくよくよ悩んでも仕方ありません。妊娠中の飲酒には胎児性アルコール症候群のリスクがありますが、リスクはあくまでもリスクであって、妊娠中に飲酒したにもかかわらず、赤ちゃんがなんの障害ももたずに生まれる可能性もあります。いろいろ考え合わせても、どうしても不安がおさまらない場合は、医学的な知識を備えた産婦人科医に相談するようにしましょう。
授乳中の飲酒について
妊娠中だけでなく、出産後も授乳中に飲酒することは原則的にNG。妊娠中の飲酒は胎盤をとおして赤ちゃんに伝わりますが、授乳中に摂取したアルコールは、母乳をつうじて赤ちゃんに伝わってしまいます。赤ちゃんの肝臓の機能はまだ整っていませんので、アルコールを代謝するはたらきが弱く、体も小さいことから、アルコールによる影響を受けやすい状態です。
授乳中もできれば禁酒を続け、万が一飲酒してしまった場合には、授乳までの時間の間隔をあけることが必要です。飲酒後すぐに授乳の時間が来たときは、ミルクか飲酒する前に搾取しておいた母乳をあげましょう。
胎児性アルコール症候群について詳しくみていきましょう。
胎児性アルコール症候群とは?
胎児性アルコール症候群とは、妊娠中の女性が飲酒したことにより、おなかの赤ちゃんに生じる先天異常を総称したもので、その典型的な症状とは出生時の低体重や特徴的な顔立ちなどです。
また身体的な症状だけでなく、赤ちゃんが成長したあとにはADHDやうつ病、依存症といった問題も生じることが指摘されています。他にも精神遅延や多動症など、赤ちゃんの中枢神経に異常が生じることもあります。
妊娠中にお母さんが飲酒したことにより、赤ちゃんに生じる異常すべてを総称した呼び名としては、胎児性アルコールスペクトラムがあります。胎児性アルコールとして生じる異常には、比較的軽度のものから、重篤なものまでさまざまな段階と種類があります。
胎児性アルコール症候群の具体的な症状
ここで胎児性アルコール症候群の具体的な症状について具体的に挙げてみましょう。
赤ちゃんの発育不全
お母さんの子宮の中での赤ちゃんの正常な発達が阻害されることを指します。低体重や低身長に加えて、身長に比べて体重が少ないこと、体重が減少することなども挙げられます。
これらの特徴には、妊婦さんのアルコール摂取以外にも原因がありますので、胎児性アルコール症候群かどうかの診断は、他のポイントも考慮に入れることになります。胎児性アルコール症候群の診断基準については、下記の項目も参考にしてください。
特徴的な顔立ち
上唇が薄く、まっすぐであること、両目の幅が狭いこと、上唇と鼻の間が長い、小さく、上向きの鼻、平らな顔、小さな顎など、特徴的な顔立ちになります。このような胎児性アルコール症候群の顔立ちの特徴は、赤ちゃんが成長するとともに、徐々に目立たなくなるといわれています。
小頭症
赤ちゃんの頭が標準よりも小さな小頭症になる可能性もあります。
中枢神経系の先天異常
学習障害、難聴、発達の遅延、けいれん、多動症などの症状があらわれることがあります。
臓器・器官の異常
心臓、腎臓、耳、関節など、さまざまな器官に形態異常がみられることがあります。
ADHAやうつ病など
胎児性アルコールスペクトラムは、赤ちゃんが成長したあとにも生じる可能性があります。ADHAやうつ病、依存症などの精神的な問題が生じることも指摘されています。
胎児性アルコール症候群の診断基準について
以上に挙げた異常や特徴に関しては、妊婦さんの飲酒以外に原因がある可能性もあります。胎児性アルコール症候群と診断される基準とは以下の四つのポイントになります。
1、妊娠中の飲酒
2、顔立ちに特徴がある
3、出生時の低体重などの栄養不足
4、出生時の頭囲が小さい、難聴、直線歩行困難などの脳の異常
このような症状が見られる場合、胎児性アルコール症候群と診断されます。
胎児性アルコール症候群には治療法が確立されていない
胎児性アルコール症候群には、現在のところ有効な治療法がありません。顔立ちの特徴などは赤ちゃんの成長とともに、次第に和らぎ、目立たなくなってきますが、うつ病やADHAなどの精神的な問題は成長してからはじめて生じてきます。
中枢神経の障害などは治療も困難で、赤ちゃんは一生涯を通じて、胎児性アルコール症候群と向き合うことになります。おなかの赤ちゃんへの悪影響を避けるには、妊娠超初期・妊娠初期から臨月まで、飲酒をしないことが唯一の方法になります。
まとめ
妊娠超初期から妊娠初期の飲酒がもたらす悪影響やリスクについての幅広い情報をご紹介いたしましたが、いかがですか?お酒が好きな方にとっては、妊娠中の期間を通じてずっとお酒を控えることは辛く感じられるでしょう。しかし妊娠超初期から妊娠初期の飲酒が、おなかの赤ちゃんに与える影響はきわめて深刻で、最悪の場合胎児性アルコール症候群にかかってしまいます。
大切なおなかの赤ちゃんに悪影響を及ぼすリスクのあるアルコール。とくに妊娠超初期から妊娠初期にかけての時期は、赤ちゃんの器官が形成される重要な時期であり、後々後悔しないためにも、飲酒は絶対に控えるべきといえるでしょう。
※参照1 厚生労働省提供 生活習慣病予防のための健康情報サイト 胎児性アルコール症候群
※参照 日本産婦人科学会 飲酒、喫煙と先天異常