微弱陣痛とは子宮の収縮が弱く、陣痛の度合いが弱いために、赤ちゃんがなかなか出てこない状態を指します。
微弱陣痛になると、分娩が終了するまでに時間がかかり、母体に対する身体的な負担が大きくなります。また陣痛があまりにも長引くと、おなかの赤ちゃんにも悪影響が及ぶことがあり、それなりのリスクを伴います。
微弱陣痛が起こる原因や微弱陣痛になりやすいタイプ、症状や対処法などについて、ポイントごとにまとめてみました。そろそろ出産予定日が近づいてきた妊婦さんに、ぜひ参考にしてもらいたい微弱陣痛に関するさまざまな情報を幅広くご紹介していきます。
微弱陣痛と正常な陣痛の違いは?
微弱陣痛とは読んで字のごとく、陣痛が普通の状態よりも弱い状態を指します。通常、陣痛はいったん始まると、徐々にその強さが増していくとともに、痛みと痛みの間の間隔も短くなっていきます。
陣痛には波があり、強くくるときと弱くくるときがありますが、微弱陣痛の場合、痛みの強さと持続時間が十分でなく、痛みの間隔が不規則であるという特徴があります。
正常な陣痛の特徴とは?
微弱陣痛の特徴について詳しく知る前に、まずは正常な陣痛について知っておくようにしましょう。
陣痛とは分娩を促すために、子宮が収縮することにより生じるおなかの張りや痛みを指します。陣痛には本陣痛と前駆陣痛がありますが、本陣痛の場合、いったん陣痛が始まると、おなかの張りや痛みは徐々に激しくなっていきます。
これに加えて、痛みと痛みの間の間隔は次第に短くなり、痛みの持続する時間も徐々に長くなっていきます。また痛みが規則的に襲ってきますので、これをカウントすることにより、病院に向かうタイミングを計ります。
陣痛から出産までにかかる時間
陣痛の始まりから出産が終了するまでにかかる時間ですが、これはそれぞれの妊婦さんにより個人差が大きく、いちがいに断定することは出来ません。
ただし傾向としては、経産婦さんよりも、初産婦さんのほうが陣痛から出産までにかかる時間が長くなります。
初産婦と経産婦の目安時間は
経産婦さんの多くは、陣痛が始まってから約7時間前後に出産を終えますが、初産婦さんの場合、約15時間前後かかってようやく出産までこぎつける方もいます。
またこれはあくまでも傾向で、初産婦さんでも比較的早く分娩が終わる方もいれば、経産婦さんでも難産を経験する方もいます。
微弱陣痛の定義とは?
陣痛は子宮内圧・陣痛周期・陣痛持続時間の3点でもって、平均陣痛・微弱陣痛・過強陣痛に分けることが出来ます。
例えば子宮口が4~6cm開いた時の平均陣痛の場合、陣痛周期は3分なのに対し微弱陣痛は6分30秒以上、陣痛持続時間は平均陣痛が70秒に対し微弱陣痛は40秒以内となっています。分娩2期にすすむ子宮口10cmでは、平均陣痛の周期が2分・持続時間は60秒ですが、微弱陣痛では周期が4分以上・持続時間は30秒以内です。
このように微弱陣痛は、押し出す力が弱いため陣痛持続時間が短く陣痛周期が長いと言う特徴が見られます。もちろんこれら3点以外にも、分娩の進み具合なども考慮に入れて総合的に判断されます。※参照:日本産科婦人科学会 代表的異常分娩とその管理
前駆陣痛について
前駆陣痛とは本陣痛の前触れのように起こるもので、生理のはじまりのようなおなかの痛みや張りを感じることが特徴です。
本陣痛とは違いはというと、痛みが不規則に訪れることと、痛みの度合いが強くならないこと。前駆陣痛はそのまま次第に痛みが引いていきます。時間の経過とともに痛みの強度が増していく本陣痛との違いはここにあります。前駆陣痛の痛みは軽く、体質によっては前駆陣痛が起こったことにまったく気がつかない妊婦さんもいます。
前駆陣痛の起きる時期
前駆陣痛は本陣痛が起きる前に起こりますが、どのくらい前に起きるかに関しては、一人一人の妊婦さんにより異なります。本陣痛の起こる数日前に前駆陣痛が起こったという方もいれば、前駆陣痛が起こってすぐに本陣痛が起こることもあり、前駆陣痛と本陣痛の間の時間差について予測することは困難です。
一ついえることは、前駆陣痛が起こったら、いつ本陣痛が起こってもおかしくない、ということ。前駆陣痛かな?と思われるおなかの張りや痛みが起こったら、痛みの間隔や強さなどについてよく気を配るようにしましょう。前駆陣痛だと思っていたら、実際には本陣痛だった、というケースも見受けられます。
前駆陣痛と微弱陣痛の違いとは?
前駆陣痛も微弱陣痛も痛みが弱いため、果たしてどちらなのか、区別がつかないこともあります。前駆陣痛と微弱陣痛の違いとは何でしょうか?
前駆陣痛とは本陣痛前に起こる、いわば子宮収縮の予行練習のようなもの。子宮口は開かず、破水も起こりません。子宮が不規則に収縮し、やがて収まってくるだけのものが前駆陣痛。
これに対して痛みは弱いものの、微弱陣痛の場合子宮口が開きはじめ、破水が起こっている場合があります。これが前駆陣痛と微弱陣痛の違いになります。前駆陣痛なのか、微弱陣痛なのかは、始まった段階で予測することは出来ません。
出産予定日が近くなり、おなかに張りや痛みを感じたら、注意深く推移を見守り、必要であればすぐに病院に向かう準備を整えておきましょう。
微弱陣痛の原因とは?
微弱陣痛は陣痛が始まったにも関わらず、弱い陣痛がだらだらと続き、子宮口が全開せずに、赤ちゃんがなかなか下りてこない状態を指します。微弱陣痛は主に二つのタイプに分けることが出来ます。
一つは陣痛の開始から、弱い陣痛がだらだらと続き、分娩の進行がはかどらない原発性微弱陣痛。もう一つはなんらかの原因で分娩の途中から陣痛が弱くなっていく続発性微弱陣痛。それぞれのタイプごとに原因を詳しく見ていきましょう。
原発性微弱陣痛の原因とは?
原発性微弱陣痛の原因のひとつは子宮筋腫や子宮発育不良などにより、子宮の形状に異常がみられる場合や、多胎妊娠や羊水が過多になっているために、子宮筋が過剰に伸びている場合などに起きやすいとされています。
妊婦さん自身に問題があるケースとしては、体重が多すぎる場合、精神的な緊張の度合いが激しい場合、そして体力がなく、母体が著しく疲労している場合などが挙げられます。
身体的な疲労はもちろんのこと、陣痛・分娩に対する不安が高まっているために、精神的ストレスを抱えていると、原発性微弱陣痛を引き起こしやすいといわれています。
続発性微弱陣痛
陣痛の始まりから、弱い陣痛が続く原発性微弱陣痛とは異なり、続発性微弱陣痛の場合、分娩の途中から陣痛が弱くなっていきます。
その原因は母体側にある場合と、胎児側にある場合の両方が考えられます。また原発性微弱陣痛同様、母体の疲労や精神的な不安、体力の消耗によっても、続発性微弱陣痛は起こります。
母体に原因がある場合とは?
続発性微弱陣痛の原因は、妊婦さんの精神的ストレスや身体的な疲労以外にもあります。産道が短く、十分な柔軟性がない、骨盤が狭すぎる、また子宮筋が疲労していることも、続発性微弱陣痛の原因のひとつになります。
胎児側に問題がある場合
胎児側の原因として挙げられるのは、おなかの赤ちゃんが成長しすぎている巨大児や、胎児になんらかの問題がある場合、また胎児の胎位や体勢が良くない場合などになります。
微弱陣痛になりやすいタイプとは?
微弱陣痛の原因の項で述べたように、肥満や精神的なストレス、体力の消耗、睡眠不足からくる疲労がある場合、微弱陣痛が起こりやすくなります。
身長が低く、骨盤の狭い方
身長が低く、体のつくりが小さい方、骨盤が小さく、産道が狭い方なども微弱陣痛になりやすいといわれています。体格的に微弱陣痛を起こしやすい方に関しては、一般的に難産になりやすい傾向が顕著です。
ただし身長が低いからといって、必ずしも膣分娩が出来ないというわけではありません。予定帝王切開になるかどうかは、医師の判断にもよりますので、出産に関して不安なことがある場合には、あらかじめ医師や助産婦さんとよく相談し、出産に関する疑問や不安な点を解消しておくようにしましょう。
微弱陣痛を予防するには?
微弱陣痛の原因の中には、自分では回避することの出来ない器質性のものもありますが、妊婦さんのちょっとした努力で防げることもあります。
肥満や精神的なストレス、疲労感などは微弱陣痛につながるだけでなく、分娩を困難にし、分娩にかかる時間を長引かせる原因にもなります。
妊娠後期になると、おなかがさらに大きくなり、体を動かすのが億劫になりますが、出産を楽にするためには、軽い運動を日常的に行い、肥満を防止しておく必要があります。
微弱陣痛によるリスクとは?
微弱陣痛による影響は、ママと赤ちゃんの両方に及びます。微弱陣痛になると、子宮口が全開するまでに時間がかかりすぎますので、その結果分娩時間が長くなり、妊婦さんは体力を消耗してしまいます。また分娩が長引くと、おなかの赤ちゃんにも悪影響が及び、生命の危険に晒される場合も考えられます。
微弱陣痛が起こった場合、状況を注意深く見守りながら、陣痛促進剤で分娩を促したり、どうしてもやむをえない場合には緊急帝王切開手術で、赤ちゃんを取り出すことになります。
微弱陣痛の対処法について
微弱陣痛が起こった場合、どのような処置を取るかに関しては、分娩のどの段階に達しているかによって異なります。分娩第一期の微弱陣痛は、そのまま様子を見て、妊婦さんの体力の回復を図り、陣痛の強さが増すのを待ちますが、いつまでたっても陣痛の強度が増さない場合には陣痛促進剤を用いることになります。
分娩の段階について
分娩第一期とは陣痛が始まってから、子宮頚部が全開するまでの間を指します。分娩一期の所要時間は妊婦さんにより個人差がありますが、分娩全体に占める割合のうち、そのほとんどを占めるのがこの分娩一期になります。初産婦さんでは分娩第一期に10時間以上かかることも珍しくありません。
次に訪れるのが分娩第二期。これは子宮頚部が全開したときから、赤ちゃんが出てくるまでの時期を指します。これは初産婦さんでも1、2時間程度で終了するといわれています。
最後が分娩第三期で、この時期は後産と呼ばれ、これにより胎盤やその他子宮の内容物が押し出されます。
分娩の進行に合わせた治療
先述のように、分娩第一期の微弱陣痛への対処法は、通常は様子を見守ることから始まります。分娩第一は経産婦さんでも通常6、7時間かかりますので、十分な睡眠を取り、ゆっくりと休養することにより、子宮の収縮が高まり、弱かった陣痛が増してくることがあります。
ただし、陣痛が弱いまま推移していく場合には、陣痛促進剤を用いて、分娩を促していくことになります。分娩第二期が近づいているにも関わらず、破水が起こらない場合、人工的に破水をもたらす人工破膜という処置が取られることもあります。
陣痛促進剤の使用
微弱陣痛がだらだらと続き、分娩が進行しない場合、そのままにしておくと、母子ともに危険な状態に陥る恐れもあります。
通常、陣痛促進剤が用いられるのは、出産予定日を大幅に超えても一向に陣痛の兆しがない場合や、破水しているにもかかわらず、子宮口が開かず感染症の恐れがある場合、おなかの赤ちゃんの容態が思わしくない場合など。
これに加えて、微弱陣痛がいつまでも続き、そのままでは分娩の進行がはかどらないときも、陣痛促進剤を用いて、子宮の収縮を促すという治療法が用いられます。
吸引分娩による分娩
子宮口が全開していて、赤ちゃんの頭がおりてきているにも関わらず、そのまま分娩が滞っているときに用いられる分娩法のひとつが吸引分娩。赤ちゃんの頭にシリコン製のカップを当てて、吸引することにより、分娩を促します。
カップ状ではなく、スプーン状の鉗子で赤ちゃんを取り出す鉗子分娩という方法もあります。陣痛促進剤を用いるか、それとも吸引、あるいは鉗子を用いての分娩になるかは、そのときの状況次第で医師により判断されます。鉗子による分娩は現在ではどちらかというと減少傾向にあるようです。
バルーンやラミナリアによる分娩誘発
バルーン(メトロイリンテル)による分娩誘発とは、風船状の器具を子宮口に入れることにより、子宮を開きやすくするもので、分娩誘発に非常に効果がある方法です。ラミナリアとはマッチ棒状の器具で、これもバルーン同様、子宮口に挿入することにより、分娩を促します。
帝王切開手術による分娩
陣痛促進剤を用いたにも関わらず、反応がなく分娩が進行しない場合、微弱陣痛により母子ともに衰弱が激しい場合、他に有効な方法が考えられない場合には、緊急帝王切開手術により赤ちゃんを取り出すことになります。
まとめ
微弱陣痛の原因や症状、前駆陣痛との違い、微弱陣痛からの分娩誘発法などについて、気になる情報をご紹介しました。微弱陣痛の原因には避けられるものと避けられないものがあります。
産道や骨盤が狭い、子宮筋の機能に問題がある場合などに関しては、努力してもこれを回避することは出来ませんが、肥満やストレス、疲労に関しては、妊婦さんの努力次第でなんなく解消することも可能です。分娩を楽にするためにも、出産予定日が近づいたら、一層の体調管理に努めるようにしましょう。