早剥(そうはく)と言う言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。妊娠中期から後期に差し掛かると、いよいよ出産が間近に近づいていることを実感しますが、この時期に注意したいのが早剥(そうはく)胎盤剥離(たいばんはくり)「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはく)」という症状です。
母子ともに命に関わるほど危険な状態に陥ることなので、しっかり把握しておくことが大切です。妊娠中はさまざまな不安や心配事が多くなります。
妊娠初期には流産の可能性が心配ですし、安定期を過ぎてからは早産が心配になります。それまで安定していても、出産までは何が起こるかわからないのが妊婦生活でもあるのです。そこで、常位胎盤早期剥離について、さまざまな情報を詳しくご紹介していきましょう。
常位胎盤早期剥離とは
常位胎盤早期剥離とは、出産の前に胎盤が子宮壁から剥がれてしまうことを言います。胎盤は通常、分娩してから15分~30分後に自然に剥がれて身体の外に出てきます。
しかし、出産前に胎盤が剥がれてしまうことで、母子ともに大きな負担が生じるようになるのです。
胎盤の働きについて
胎盤は赤ちゃんにとって非常に重要なものです。赤ちゃんがお腹の中で成長し続けることができるのは、胎盤から酸素や栄養をもらっているからです。
もし分娩前に胎盤が子宮壁から剥がれてしまうと、赤ちゃんに届けられるはずの酸素や栄養の供給がストップしてしまうため、赤ちゃんに重い障害が生じたり、最悪の場合赤ちゃんがお腹の中で命を落としてしまったりする可能性もあるのです。
常位胎盤早期剥離に注意するのはいつから?
常位胎盤早期剥離は進行が早いため、お母さんがいつ症状に気がつくかでその後の処置が変わってきます。常位胎盤早期剥離は一般的に妊娠32週ごろから発症し始め、妊娠35~37週が最も発症確率が高いと言われています。
妊娠32週ごろは赤ちゃんの体重が一気に増加する時期ですが、妊婦さんが妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群になりやすい時期でもあります。赤ちゃんの体重増加につられてお母さんの体重も更に増えますが、ここで油断すると妊娠高血圧症候群ひいては常位胎盤早期剥離につながる可能性も出てきますから、妊娠30週に入ったら体重管理を更にしっかり行っていきましょう。
常位胎盤早期剥離後の出血
常位胎盤早期剥離が起こると、子宮壁から出血が起きるため、「胎盤後血腫」と言われる血の塊が子宮壁と胎盤の間にできるようになります。胎盤後血腫が起きると、母体の血液状態が変化し血液が固まりにくくなってしまうようになります。
血液が固まりにくくなることとは、「播種性血管内血液凝固症候群」とよばれ、DICと略して言われることもあるでしょう。播種性血管内血液凝固症候群が起きると、出血を止めることができなくなるため、出血が多量になることにより身体がショック状態を引き起こします。
肝臓や腎臓などの臓器に障害が発生する場合もあれば、最悪の場合子宮を摘出しなければならなくなったり、母体の命に関わったりする可能性もあります。
常位胎盤早期剥離の症状について
常位胎盤早期剥離は、妊婦にとって恐ろしいことですが、具体的に身体にどのような症状が現れるのでしょうか。
常位胎盤早期剥離が軽度の場合
軽度の常位胎盤早期剥離の場合、身体に現れる症状はほとんどないと言ってよい状態になります。不正出血が起きることもなければ、腹痛などの違和感もないため、気づかないまま過ごすことも多いでしょう。
常位胎盤早期剥離が重度の場合
重度の常位胎盤早期剥離の場合、動けないほどの下腹部痛が発生するようになります。それと同時に不正出血が起こったり、胎動が急に弱くなったりするのが特徴です。お腹は張っているというよりも板のように硬くなっていることが多いでしょう。
自分で身動きを取れることができないため、すぐに救急車で搬送してもらうことが必要になります。
常位胎盤早期剥離の原因
常位胎盤早期剥離の症状についてご紹介しましたが、なぜこのような状態が引き起こされてしまうのでしょうか。
実は、常位胎盤早期剥離が起きる理由はハッキリとわかっていないのが現状です。ただ、常位胎盤早期剥離が起きやすい人の特徴はありますので、ご紹介しておきましょう。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群とは、高血圧、尿タンパク、浮腫(むくみ)のうち、どれか1つ症状が現れていたり、2つ以上症状が現れていたりする状態のことを言います。
妊娠後期に発生するケースが多く、常位胎盤早期剥離が起きる確率も高いのが特徴です。
絨毛羊膜炎
絨毛羊膜炎とは、赤ちゃんを包んでいる脱落膜、絨毛膜、羊膜という3層の膜のうち、絨毛膜と羊膜に炎症が起こる病気のことを言います。
炎症に気づかず適切な処置をしていないことで子宮収縮が引き起こされて破水し、常位胎盤早期剥離が引き起こされる確率が上がると言われています。
前期破水による感染
陣痛が起きる前に破水すると、雑菌が侵入して感染しやすくなるため、母子ともに危険な状態になりやすくなります。また、雑菌の感染により炎症が起きると常位胎盤早期剥離が引き起こされる確率が上がり、さらに早い処置が必要となります。
切迫早産の影響
妊娠後期に不正出血があった場合、切迫早産の可能性があるため安静が必要になります。しかし、無理を継続してしまうと子宮に負担がかかり、子宮収縮を止められなくなってしまうため、常位胎盤早期剥離が引き起こされるやすくなってしまうでしょう。
高齢による妊娠・出産
高齢妊娠・出産をする方は年々増加していますが、高齢は常位胎盤早期剥離のリスク因子のひとつです。高齢の妊婦さんは、そうでない妊婦さんよりも妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群になる確率が高く、自動的に常位胎盤早期剥離の可能性も高くなります。
また、常位胎盤早期剥離は胎盤自体が十分に機能していない胎盤機能不全によっても引き起こされますが、高齢の妊婦さんは子宮や卵巣の機能が低下しているため、この胎盤機能不全になりやすいと言われています。
いずれにしろ高齢の妊婦さんは定期健診の回数が多いですから、異常の早期発見のためにもサボらずに検診を受けてください。
腹部への衝撃
常位胎盤早期剥離は、腹部に何らかの衝撃が加えられることでも引き起こされます。激しい衝突だけでなく、ボールが当たったり、少し人とぶつかったりしただけでも発生することがあるため、腹部に何らかの衝撃があった場合は、速やかに医師に報告して経過観察するようにしましょう。
喫煙の影響
常位胎盤早期剥離は、喫煙により引き起こされるとも言われています。妊娠が分かった時点で禁煙することは必要ですが、周囲にも禁煙を促すようにしましょう。妊婦本人が喫煙していなくても、周りに喫煙者がいると受動喫煙によりタバコの影響を受けてしまうからです。同じ家に住んでいる家族が喫煙者の場合は、考慮してもらえるようよく話し合うようにしましょう。
常位胎盤早期剥離の経験がある場合
過去に常位胎盤早期剥離の経験がある方の場合、次の妊娠でも常位胎盤早期剥離が発生する確率が高いと言われています。
そのため、担当の医師にその事実をしっかり伝え、情報を共有しておくようにしましょう。情報を共有しておくことで、万が一常位胎盤早期剥離が起こっても、すぐに適切な処置を行うことができます。
その他の要因
常位胎盤早期剥離の原因として、その他にも子宮筋腫、腎炎、バセドー病などの持病を妊婦自身が持っている場合も、引き起こされやすいと言えます。
このような持病を持っている方すべてに常位胎盤早期剥離が起きるというわけではありませんが、可能性としては高いことを知っておきましょう。
常位胎盤早期剥離の診断方法は
常位胎盤早期剥離は、重度だと症状がわかりやすいですが、軽度の場合自覚症状がほとんどありません。では、どのようにして常位胎盤早期剥離だと診断することができるのでしょうか。
基本的に、常位胎盤早期剥離かどうかは超音波検査や胎児の心拍数などで診断されます。ただ、モニターで見ても軽度の常位胎盤早期剥離の場合、画面にハッキリと映らないことも多いため、見過ごされやすいのが実情です。
最初は胎盤が厚く映っているものだと思われていたものが、時間が経過して症状が進行するにつれて、胎盤後血腫を見分けられやすくなるため、常位胎盤早期剥離だと発見しやすくなるのです。
治療方法について
常位胎盤早期剥離だと判明した場合、どのような治療方法が必要になるのでしょうか。まず、軽度の常位胎盤早期剥離の場合、胎児の心拍数などに問題が無ければ入院をして安静に過ごし、経過観察という方法で見守る形になります。
しかし、常位胎盤早期剥離が重度の場合、早急に赤ちゃんを取り出す必要が出てくるでしょう。重度の常位胎盤早期剥離だと、赤ちゃんに酸素や栄養が供給されていない状態になっているため、時間が経過するにつれて赤ちゃんに障害が出るようになったり、最悪の場合命を落としたりする可能性があるからです。
妊娠34週以降で赤ちゃんの生育がほぼ整っている状態なら、促進剤を使って分娩を誘発することもありますが、ほとんどの場合で帝王切開により救出されることになります。
子宮摘出の可能性について
重度の常位胎盤早期剥離の場合、緊急に手術をして赤ちゃんを救出する必要があります。しかし、赤ちゃんだけでなく母体を救出することも必要になります。
常位胎盤早期剥離が起こると、胎盤後血腫が起こり、播種性血管内血液凝固症候群を引き起こす可能性があるため、出血を止められなくなるからです。
そのままの状態を放置しておくと、出血多量により妊婦は死亡してしまうため、妊婦の命を救うために子宮を摘出する必要が出てきます。最悪の場合、赤ちゃんの命が救えず、子宮も摘出されてしまうことになるでしょう。
予防方法について
常位胎盤早期剥離は、恐ろしい病気ですが高い確率で発生するものではありません。妊婦全体の割合からすれば、0.3%〜0.9%くらいの確率で起こる可能性があると言えるでしょう。
ただ、誰にでも起こるものではないからと言って、必ずしも自分に起きないとは限りません。体質や生活習慣などを改善することで、常位胎盤早期剥離が起きる可能性をさらに低く抑えられるようにしましょう。
体重管理と血圧管理
常位胎盤早期剥離を予防する上で、大切になってくるのが体重と血圧の管理です。妊婦になると食欲が増えて体重管理が難しくなったり、つわりをきっかけに濃い味のものを好んで食べたりするようになりますが、食生活が乱れてしまうと、体重はどんどん増えて血圧も高くなってしまいます。
そうなると妊娠高血圧症候群などを引き起こし、常位胎盤早期剥離も発症する可能性が高まるため、規則正しいヘルシーな食事を意識するようにしましょう。
妊婦健診はしっかり受けよう
常位胎盤早期剥離を予防する上で、大切になってくるのが妊婦健診です。常位胎盤早期剥離の兆候をいち早くキャッチすることで、最悪の状態を免れる確率が上がるからです。
常位胎盤早期剥離は、超音波検査や胎児の心拍数などで見つけることができますが、胎動が弱くなったと感じたり、微量の出血が伴ったりした場合は、妊婦健診以外の時でも連絡し、診察を受けるようにしておきましょう。
無理をしないこと
常位胎盤早期剥離を予防する上で、無理をしないということは非常に大切です。微量の不正出血により切迫早産の可能性がある場合、安静にする必要があります。
しかし、医師の指示を無視して安静にしないことで、本当に早産になってしまうだけでなく、常位胎盤早期剥離を引き起こし自分の命に関わってくる可能性もあります。医師から安静にするよう言われた時は、身体が疲れていなくても絶対に無理をしないようにしましょう。
陣痛の痛みとの違い
臨月に近づいてくると、常位胎盤早期剥離の確率も高くなってくると言われています。常位胎盤早期剥離では、下腹部痛や不正出血などを伴いますが、臨月にこれが起きると陣痛だと勘違いしてしまうことも多々見受けられます。
陣痛と常位胎盤早期剥離の痛みの違いは、強弱の波があるかどうかで判断することができます。陣痛の場合、痛みが一定時間続きますが楽な時間もあるため動いたり食事をしたりすることが可能です。
しかし、常位胎盤早期剥離の場合、痛みが持続したままで強弱はなく、自分では身動きできない状態になるため、明らかに陣痛とは異なる痛みになります。最初は陣痛だと思っていたけれど、どうも痛みが長く続いていておかしいと感じたら、医師にすぐに連絡して救急車で運んでもらうようにしましょう。
まとめ
常位胎盤早期剥離について詳しくご紹介しました。常位胎盤早期剥離は、誰にでも起こるものではありませんが、発生した場合はすぐに処置する必要があるため、知識としてきちんと知っておくことが大切です。
赤ちゃんや自分の命にも関わることなので、常位胎盤早期剥離を予防するためにも、日頃から規則正しい生活を意識して送るようにしましょう。