妊娠糖尿病は最近とくに増加しているといわれています。その名が示す通り、妊娠してはじめて発症する軽度の糖尿病のことで、最近とくに妊娠糖尿病にかかる妊婦さんが増えているという報告がなされています。
妊娠糖尿病と診断される妊婦さんが増加している理由の一つは、平成22年に妊娠糖尿病に関する診断の目安が変更されたことにあります。これにより、これまでは妊娠中の定期診断において、他にとくに問題がない限り、あまり問題視されることになかった妊娠中の糖代謝の軽度異常について、より詳しい検査が行われるようになりました。
妊娠中に糖尿病の症状が表れると、最悪の場合お腹の赤ちゃんにも悪影響が及ぶことがあります。妊娠糖尿病について正確な知識を備え、妊娠初期の段階から食事内容や毎日の過ごし方に気をつけ、安全で健康な妊娠生活を送るようにしましょう。
妊娠糖尿病とは
妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて血糖値が高くなる症状を指します。妊娠以前から糖尿病を抱えていた方や、妊娠中の定期健診で(妊娠する前からすでに)糖尿病にかかっていた方は含めません。
妊娠糖尿病の定義とは、それ以前には血糖値は平準であったにも関わらず、妊娠してから急に高血糖値が認められた状態を指します。
妊娠糖尿病の場合、妊娠中に高くなっていた血糖値は出産後徐々に平常に戻ることが多いのですが、しかし出産後きちんと検診を受けずに、そのまま放置しておくと、単なる妊娠中の高血糖だった症状が深刻化し、今度は本物の糖尿病になることもあります。
妊娠糖尿病が発症する仕組み原因とは?
妊娠糖尿病を発症しないまでも、妊娠すると血糖値が上がりやすい状況が作り出されます。その原因は胎盤から分泌させるホルモンにあります。このホルモンはインスリンの正常なはたらきを抑制することで知られています。
通常の場合、すい臓から分泌されるインスリンのはたらきにより、体内の血糖値は正常に保たれますが、妊娠中期になると、インスリンに対して体が抵抗性を持ってしまい、そのためにインスリンのはたらきが行われないことになります。
ここですい臓は不足しているインスリンを補おうとして、インスリンの分泌量を増やそうとしますが、人によってはインスリンの分泌量が不足分に間に合わず、結果として血糖値をうまくコントロールできなくなります。
妊娠糖尿病にかかりやすい時期は?
妊娠中の女性の体には、インスリンの効きやすい時期と、インスリンが効きにくくなる時期の二つがあります。妊娠初期はインスリンが比較的効きやすい時期といわれ、これとは逆に妊娠中期以降になると、インスリンの効果が出にくくなるといわれています。
つまり妊娠初期の段階では大丈夫でも、中期以降になり糖代謝に異常が出ることもありますので、妊娠の全過程において気を抜かないようにしなければなりません。
妊娠糖尿病にかかりやすい人とは?
妊娠糖尿病にかかりやすいのは、もともと体重が標準よりも多めの方や、両親や兄弟姉妹が糖尿病を患っている方、また高齢出産の場合なども妊娠糖尿病を発症させやすいタイプになります。
また以前に巨大児を出産したことがある方や、以前の妊娠のときも血糖値が高かった方は、妊娠が判明したらとくに注意を払う必要があります。他にも原因が特定できない習慣性の流産や早産を経験した方や、妊娠高血圧症の方などにもリスクがあるといわれてます。
妊娠糖尿病は誰にでも起こりうる
妊娠糖尿病にかかる可能性の高いグループについてはすでに述べましたが、妊娠糖尿病はこのような高リスクの方だけがかかるわけではありません。体重の少ない妊婦や、家族に糖尿病患者のいない方でも、なんらかの原因により、すい臓から分泌されるインスリンの量をうまく調節させることが出来なければ、糖代謝機能が低下してしまいます。
食べ過ぎや食習慣の乱れだけが、妊娠糖尿病の原因と思っている方もいるようですが、妊娠糖尿病は2型糖尿病とは異なりますので、その点に注意しましょう。
妊娠前から糖尿病の方の場合
妊娠してはじめて軽度の糖尿病の症状が出た方とは別に、妊娠する前から糖尿病にかかっている方もいます。このように妊娠前からすでに糖尿病にかかってる方に関しては、妊娠糖尿病とは呼ばずに、糖尿病合併妊娠と呼んでいます。
すでに糖尿病を抱えている方に関しては、妊娠糖尿病の方よりもさらに厳しく妊娠管理を行っていく必要があります。
妊娠糖尿病の胎児に対するリスクとは?
妊娠糖尿病になると、母体だけでなく胎児に対するリスクも高まります。胎児に対するリスクとしてまず挙げられるのが、巨大児になる可能性です。母体でインスリンの供給が追いつかずに、お母さんの体の血糖が高くなり、糖分が胎児にまで移行してしまうことがあるからです。
子宮内にいたときに過剰な糖分を得ていた胎児は、出産後は今度は低血糖の症状を見せることもあります。そのためお母さんに糖尿病がある場合には、生まれた赤ちゃんに対する管理も非常に重要になります。他にも黄疸や多血症、形体の異常など、さまざまなリスクが挙げられます。
妊娠糖尿病の母体に対するリスクとは?
母体に対するリスクとしても、たくさんの項目を挙げることが出来ます。典型的なリスクとして挙げられるのが、早産や流産、そして早期胎盤剥離、羊水量の異常など、これは母体とともに胎児にも関わる重要な事柄です。
母体への危険性としては、高血圧症や網膜症、腎臓障害などを挙げることが出来ます。
早期に発見するためには
妊娠糖尿病の初期検査
妊娠糖尿病を早期に発見するために、現在ではほとんどの病院において、妊娠初期から糖尿病のスクリーニング検査を行っています。その具体的な方法とは、まず随時血糖値を測定することから始まります。これは食前、食後に関わらず測定するものて、他にも空腹時の血糖値を測定するスクリーニングが行われることがあります。
随時血糖値が高かった方に対しては、75gのブドウ糖負荷チェックを行い、さらにふるいわけ(スクリーニング)を進めていきます。妊娠初期の段階から血糖値が高い場合には、胎児に対する影響も大きくなるといわれていますので、すぐに治療をはじめることになります。
妊娠糖尿病の中期以降のチェック
妊娠初期の段階で糖代謝に異常が見られなかった方も、妊娠中期以降になり、体にインスリン抵抗性が備わってくると、血糖値が上がりやすくなります。妊娠初期同様、中期にも再び随時血糖値を測定し、糖代謝に異常がないか調べます。
糖尿病の種類について
糖尿病にはいくつかの種類があることをご存知ですか。糖尿病のうちもっとも件数が多く一般的なタイプは、2型糖尿病と呼ばれています。このタイプは生活習慣や食生活と密接な関係があるとされていて、一般的に糖尿病というと、この2型糖尿病を思い浮かべることが多いでしょう。
その他のタイプとしては、すい臓の細胞のうち、インスリンを作る細胞が壊れてしまい、インスリンの供給が減ることから起こる糖尿病があります。これはインスリン依存型糖尿病と呼ばれています。もう一つは遺伝子に異常がある場合や、服用している薬剤の影響、さらには感染症や内臓疾患により引き起こされるタイプ。そして最後に挙げられるのが、妊娠中にはじめて起こる妊娠糖尿病です。
妊娠糖尿病と2型糖尿病の違い
糖尿病と聞いただけで、食事制限のことを思い浮かべてしまうのは、日本ではこの2型糖尿病が全体の件数のhほとんどを占めるせいと言えます。
2型糖尿病はインスリンの供給量が減ることもあれば、インスリンの効き目が弱くなることもありますが、背景にあるのは、生活習慣や食習慣の乱れといわれています。そのため糖尿病の症状の改善を求めるのであれば、運動不足の解消や食生活の見直しが欠かせません。
では妊娠糖尿病の場合はどうでしょうか。もちろん暴飲暴食をしたり、極端に高カロリーな食事を取ることは控えるべきですが、血糖値を気にするあまり、ダイエット食のような食事をしていると、胎児に十分な栄養が行き渡らず、別の問題を引き起こしてしまいます。生活習慣や食生活を見直すことは大切ですが、母体と胎児に必要な栄養はきちんと取らなければなりません。運動についても同様で、体力を消耗しすぎる運動や、怪我の恐れがあるような運動を避けなければならないのは、むしろ当たり前と言えるでしょう。
妊娠糖尿病の治療方法は?
妊娠糖尿病と診断されたら、まずは食事の取り方を考えるようにします。もっとも重要なことは、食事の前後で血糖値が急激に上昇したり、下降したりしないよう、上手にコントロールすることです。
妊婦さんの場合、母体と胎児両方が必要としている栄養素を満遍なく摂取する必要があります。単に食事の量とカロリーに注意するだけでは、十分とはいえません。
妊娠糖尿病の食事は?
食事の前と後の血糖値がローラーコースターのように急上昇、急下降する。これこそ糖尿病にとってもっとも危険なことです。出来る限り血糖値を一定に保つには、一度に食べる食事の量を少なめにするのが有効です。
他には血糖値の上がりにくい食材、すなわちGI値の低い食材をたくさん食べることや、栄養バランスを考えすべての栄養素を満遍なく取ることなどが奨励されています。また1日3食規則正しく食事をとるように心がけましょう。
あまりにも低血糖には注意
糖尿病の方が治療の際に気をつけるのは低血糖ですが、これは妊婦さんでも同じ事です。高血糖で糖尿病になるのだから低血糖はよい事なのでは?と思ってしまいがちですが、急激な血糖値の上下は赤ちゃんに負担を与えてしまいます。
また、あまりにも低血糖だと、動悸や発汗・体の震え・意識混濁など母体の生命が危険にさらされる事もある怖い症状なのです。妊婦さんは血液が増えたりインスリン効果が非妊娠時とは異なり、食事量が少なかったりショッピングなどで多く歩いたりすると、すぐ体に異常が現れやすくなります。
特にインスリンを打ち始めたばかりの妊婦さんに起こりやすいと言われていますから、低血糖にも意識を配るようにしてみてください。
インスリン治療
妊娠糖尿病、または糖尿病合併妊娠のいずれにかかっているにしろ、妊娠中は経口血糖下降剤を用いることが出来ません。これは胎児への影響を防ぐためで、代わりにインスリン投与を行うことになります。
妊娠初期は軽い運動を行うことや、食事の内容を多少なりとも制限することにより、血糖値を安定できた方も中期以降になり、インスリンが効きにくくなると、インスリン投与により母体と胎児を保護する必要が出てくることがあります。
インスリン治療は医師の指導のもと、1日数回の注射と毎食後の血糖値の測定をご自身でおこないます。
インスリン感受性と抵抗性とは?
妊娠初期はインスリン感受性と呼ばれ、インスリンの効き目が良く、インスリンの分泌量がやや少ない場合でも、運動や軽い食事制限を行うだけで十分な場合が多いのですが、妊娠中期以降になるとインスリン抵抗性と呼ばれるインスリンの効き目が悪い時期が訪れます。
インスリンの効き目が悪い妊娠中期以降には、妊婦さんの状態により、インスリン治療が行われます。
妊娠糖尿病の出産の病院選び
妊娠糖尿病の方はそうでない方に比べて、妊娠中に特別なケアが必要になります。欧米では妊婦さんが糖尿病にかかってると、即座に設備の整った大病院への転院を勧められるほどです。
妊娠糖尿病のお母さんは妊娠初期の段階から、食事の管理や生活全般について、常に医師や看護師の方との連絡を取る必要がありますので、設備の整っていない規模の小さな産院では十分なケアが出来ない場合があります。妊娠糖尿病と分かったら、それなりの対応の出来る病院を選ぶようにしましょう。
普通分娩と予定帝王切開
妊娠糖尿病の方の場合、医師の判断で普通分娩でなく、予定帝王切開が行われることがあります。胎児が大きくなりすぎてしまい、通常の経膣分娩ではリスクが大きすぎると判断されると、帝王切開で赤ちゃんを取り出す方法が選択されます。
はじめての出産の方は普通分娩を望まれるかもしれませんが、普通分娩か帝王切開かは、胎児の成長の具合や母体の状態を鑑みて医師が判断することになります。
継続しない為の出産後の過ごし方
無事に赤ちゃんを出産したあとも、血糖値を常にコントロールし、2型糖尿病に移行しないよう気をつける必要があります。
妊娠糖尿病と診断された方も出産後はほとんどの場合、糖尿病の症状が改善され、血糖値も正常に戻ってきます。しかし妊娠糖尿病にかかったことのある方は、それ以降再び糖尿病を発症させる可能性が高いとされています。
出産後糖尿病の症状がなくなったからといって油断せず、糖尿病予防に努めるようにしましょう!
糖尿病を防ぐ授乳の勧め
生まれた赤ちゃんは母乳で育てることが勧められています。母乳を与えることは2型糖尿病の発症を抑える効果もあるとされていますので、母乳が出る方は出来るだけ母乳で赤ちゃんを育てるようにしましょう。授乳することにより、妊娠糖尿病から2型糖尿病に移行することを防ぐことも出来ます。
お母さんだけでなく、母乳で育てられた子供はそうでない子供に比べて将来糖尿病にかかる確率が少ないと報告されています。妊娠糖尿病にかかっていたため、妊娠期間中を通して食事内容に気をつけてきたお母さんは、母乳の質が非常に良いことが多く、赤ちゃんにとっては理想な母乳になります。
ここまでのまとめ
妊娠糖尿病について知っておきたいポイントをご紹介しました。妊娠糖尿病の診断基準が厳しくなったことにより、現在では妊婦さんの約10人に1人は妊娠糖尿病といわれる時代になり、誰にでも起こりうる症状ですので、自分は痩せてるからと油断することは出来ません。
妊娠糖尿病と診断されても、医師や栄養師の方と相談しながら、適切な治療を行っていけば、無事に健康な赤ちゃんを出産することが出来ます。不安なことを解消するためにも、妊娠糖尿病やその治療に関して正確な知識を身に付けるようにしましょう。