低出生体重児と未熟児の定義の違いについてご存知ですか?ちょっと考えると同じことのように感じられますが、この二つには少し違いがあります。
以前は標準的な体重に満たない赤ちゃんのことを総称して未熟児と呼んでいましたが、現在では未熟児と呼ばれるのは、正産期以前に早産で産まれた赤ちゃんのうち、体重が2500グラムに満たない赤ちゃんを指します。
低出生体重児に関しては、在胎週に関わりなく、産まれた時点での体重が2500グラムに満たない赤ちゃんを指しますので、正産期に入って産まれた低出生体重児は、厳密にいえば未熟児とはいえません。
このように低出生体重児の中でも注意が必要なのは、早産で生まれた未熟児。体の機能が完全ではありませんので、免疫力も低く、合併症や感染症にかかりやすく、設備の整った病院で慎重に成長を見守る必要があります。
医学の発達した日本では低出生体重児の死亡率は非常に低いのですが、その反面、低出生体重児の産まれる確立は年々増加する傾向にあります。低出生体重児(未熟児)に関して知っておきたいさまざまな情報をご紹介します。
低出生体重児とは?
低出生体重児(ていしゅっせいたいじゅうじ)とは、産まれたときの体重が2500グラム以下の赤ちゃんを指します。低出生体重児はあくまでも産まれたときの体重を基準に診断されますので、妊娠何週目で産まれたかに関わらず、出生時の体重が2500グラム以下の赤ちゃんはすべて、「低出生体重児」と呼ばれます。
未熟児とは?
未熟児とは以前によく用いられていた言葉で、出生時の体重が2500グラム以下で、体の発達が未熟なまま産まれた赤ちゃんを指します。
未熟児という言葉が示すのは、妊娠週が正産期を迎える前、体の発育が不十分なまま産まれた赤ちゃんのことで、妊娠週が進んでおり、体の機能的には「未熟」ではない低体重児に関しては、未熟児とは呼ばずに「低出生体重児」と呼びます。
つまり産まれたときの体重の少ない赤ちゃんを総称して未熟児と呼ぶのは、医学的に正しくなく、未熟児とは正しくは、早産で産まれた、体重2500グラム以下の赤ちゃんを指します。
不当軽量児とは?
低出生体重児の中でも、出生した週数の平均体重よりも10%以上体重が少ない赤ちゃんを不当軽量児と呼びます。その中には正産期の出産であっても、早産で生まれた赤ちゃんより体重が少ないケースも見られます。
不当軽量児の原因は、母親・胎盤・赤ちゃん自身の3つに大別されますが、赤ちゃんの染色体異常や心臓疾患によって仮死状態で生まれることも多いと言われています。
不当軽量児であっても2~3歳で成長が追いつきますが、その時点でも身長の伸びが見られない時は、SGA性低身長症として治療を行う必要があります。
低出生体重児の種類について
低出生体重児はさらに体重によってさらに三つに分けられます。
体重が1000グラムに満たない赤ちゃんは「超低出生体重児」
体重1000グラム以上1500グラムまでが「極低出生体重児」
体重1500グラム以上2500グラムまでが「低出生体重児」というように三種類に大別されます。
低出生体重児の出生率 生存率
低出生体重児の出生率について
低出生体重児が産まれる割合は年々増加傾向にあるとされています。日本のような医学が発達した国で、なぜ低出生体重児の割合が増えているかに関しては、さまざまな理由が挙げられます。
35歳以上の高齢出産が増えていること、体外受精による多胎妊娠が増えていること、体格的にどちらかというと痩せている妊婦さんが増えていること、女性の喫煙率の増加など、いくつかの原因が相互に影響し合って、このような結果がもたらされていると考えられます。
在胎週別の生存率について
医療の進んでいる日本では、低出生体重児の死亡率は非常に低いといえます。低出生体重児の生存率ですが、在胎週が28週以上で95%以上、26週および27週で90%以上になります。以下、在胎週が少なくなるにつれて、生存率も少しずつ下がってきて、24週では生存率は約80%になります。さらに在胎週22、23週で約50%と落ち込んできます。(※1)
できれば正産期になるまで頑張りたいところですが、生存率が95%以上になる在胎週28週になれば、とりあえずは安心といえるでしょう。
体重別の生存率について
お母さんのおなかの中に妊娠何週目までいたかという「在胎週」と合わせて、低出生体重児の生存率を左右するのが、産まれたときの体重になります。
体重ごとの生存率を挙げてみると、体重が2000グラム以上の赤ちゃんで約97%、1000グラム以上でも約95%弱の赤ちゃんが生存するという確立があがっています。生存率が約50%になるのは体重500グラム以下以下の赤ちゃんです。(※1)
※1参考:市大センター病院 総合周産期母子医療センター
このことから分かるように、保育器や新生児集中治療室などの医療設備の整った日本では、低出生体重児の生存率は体重よりも在胎週にかかっているといえます。
低出生体重児の原因とは?
前項において、低出生体重児が増加している背景にはいくつかの理由が考えられると述べましたが、低出生体重児が産まれる直接的な原因は主に二つあります。
一つはなんらかの理由により早産になってしまい、赤ちゃんの成長が不十分なまま生まれてしまうこと、もう一つは妊娠週は規定を満たしているものの、胎児側の原因により、たとえば子宮内発育不全などにより、赤ちゃんの発育が思わしくないまま、出産に至ってしまう場合。
前者の場合は早産児と呼ばれることもあります。とくに妊娠28週以前の早産では、赤ちゃんに障害が残る可能性もあるといわれています。反対に正産期に入って産まれた低出生体重児は、体の機能的には未熟ではありませんので、体重が2000グラムを超えていれば、他に重大な問題がなければあまり心配する必要はないといわれています。
早産による低出生体重児
早産とは妊娠22週から妊娠37週までの出産を指します。正産期前に出産してしまうと、赤ちゃんの体の発育が十分でなく、そのため体重が標準よりも少ない低出生体重児になる可能性が非常に高くなります。
早産で生まれた低出生体重児は、正産期に入ってから生まれた低出生体重児に比べると、体の機能が整っておらず、出産後も慎重に赤ちゃんの容態をチェックする必要があります。
早産を引き起こす原因とは?
早産を引き起こす原因として考えられるのは、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、絨毛膜羊膜炎などの感染症。
他にもおなかに力の入る作業をしたり、長時間の立ち仕事、性行為などにより早産が起こることがありますので、妊娠中期以降に入ったからといって油断せず、おなかや子宮に刺激のかかることは極力避けるようにしましょう。
妊娠32週目以前の早産の場合
肺と目の機能がほぼ完成されるのが妊娠32週目になりますので、これ以前に早産になった場合には、とくに呼吸器系の障害や未熟児網膜症などが起こりやすくなります。これ以降の早産の場合、呼吸器および網膜の血管に関してはリスクが大幅に減ります。
早産の場合の修正月齢とは?
早産で赤ちゃんが生まれた場合、生まれた日にちではなく、本来の出産予定日を基本にした「修正月齢」が計算されます。
たとえば予定日よりも二ヶ月早く生まれた場合、生後三ヶ月が修正月齢で生後一ヶ月、生後四ヶ月が修正月齢で生後二ヶ月というように計算されます。
低出生体重児の出生後
新生児特定集中治療室(NICU)とは?
新生児特定集中治療室とは、早産で産まれた赤ちゃんや、重大な疾病を抱えて生まれた赤ちゃん、低出生体重児の治療に当たる特別な治療ユニットを指します。
常に医者が常駐しており、新生児の治療に必要な設備が整っているため、早産で産まれた赤ちゃんなど、24時間集中して観察が必要な新生児のケアの必要不可欠なケアユニットになります。
低出生体重児の保育器でのケア
低出生体重児のケアは、赤ちゃんの容態により異なる方法が取られます。通常正産期に産まれた赤ちゃんで゛、体重がほぼ2500グラムに近い状態で、自分の力で母乳を飲むことが出来れば、保育器に入れて観察する必要がないこともあります。
保育器に入れて観察をすることが必要なのは、妊娠週が34週、35週で生まれた赤ちゃんで、体温が低く保温する必要がある場合です。保育器の中は温度と湿度が一定に保たれていますので、皮膚表面が乾燥しやすく、炎症や感染症を起こしやすい低出生体重児の看護に最適です。
低出生体重児の症状の特徴とは?
低出生体重児は体重が少ないため、標準的な新生児に比べると体温が低いという特徴があります。
低体温の他にも、呼吸器の機能が未発達なために、呼吸窮迫症候群や無呼吸発作などの合併症の症状があらわれることがあります。黄疸や貧血なども低出生体重児の症状の一つです。
低出生体重児に起きやすい合併症 黄疸
黄疸はどの新生児にも現れますが、低出生体重児の場合黄疸が強く出ることが多いです。寿命の短い赤血球が壊れるとビリルビンが作られますが、お母さんのお腹にいた頃はへその緒を通してお母さんへ送っていました。
しかし、生まれると今度はビリルビンを自分の肝臓で処理しなければならないのですが、新生児は血液量が多く内蔵機能が未熟なため、ビリルビンの色が肌に出て黄疸が現れます。低出生体重児は、内蔵機能が更に未熟であるためにビリルビンの処理が進まず黄疸が強く出ることがあるので、診断によっては光線治療を行うことがあります。
低出生体重児に起きやすい合併症 低血糖
お母さんのお腹にいる時は、胎盤を通して酸素だけでなくエネルギー源であるグルコースも送られています。出生後飲んだ母乳やミルクからエネルギーを得るまでに少々時間がかかるため、胎盤から切り離された後は肝臓や筋肉に貯蓄されていたグリコーゲンを消費しながら数日を過ごします。
体重が少ない赤ちゃんだとグリコーゲンの体内貯蓄量が少ないため、通常よりも早くエネルギー源が切れて低血糖を起こしやすくなります。また、一度に飲める量が少ないのも、低血糖を起こしやすい一因と言えるでしょう。低血糖の症状が認められた時には、母乳やそれに代わる栄養・グリコーゲンの経口投与または経静脈投与を行います。
低出生体重児の体重の変化について
低出生体重児の体重の増加ですが、一般的には体重2000グラムの赤ちゃんが、500グラム体重を増やして2500グラムになるまでに要される期間は、約一ヶ月から一ヶ月半程度といわれています。
新生児は生後数日間は排泄や汗などによる水分の蒸発により、どんな赤ちゃんでも体重が自然に減少します。これは新生児の生理的体重減少と呼ばれ、その後一週間から10日間ほどで出生時の体重に戻ってきます。低出生体重児の場合は、出生時の体重に戻るまでにかなり日数がかかることがありますが、それでも体重は徐々に戻っていきます。
母乳を自分で飲むことが出来ない場合
自分の力で母乳を飲むことの出来ない赤ちゃんは、鼻か口からチューブを通して栄養を与えることになります。
正産期以前に産まれた赤ちゃんの場合、腸のはたらきがまだ十分でないことがあるので、母乳を与えるのがもっともリスクが少ないとされています。お母さんの母乳を少量ずつ、注射器によってチューブ内に入れていきますが、栄養が足りないようであれば、点滴で不足分を補います。
退院できる目安とは?
低出生体重児が退院できるようになるには、まず自分の力でおかあさんの母乳が飲めるようになる、あるいは哺乳びんからミルクが飲めるようにならなければなりません。
他に呼吸が安定していること、心拍数に乱れが見られないこと、そして体重がある程度増加していて、自宅でのケアに耐えられる程度の体力がついていることなどが条件になります。
低出生体重児の届出について
母子保健法により、2500グラム以下の赤ちゃんが産まれた場合には届け出を行なわなければなりません。低出生体重児の治療に関しては、養育治療費が支給される場合もありますが、それぞれの市町村により支給が受けられる条件が異なりますので、詳細は最寄の市町村で確認するようにしましょう。
また低出生体重児に対する訪問相談を行っている市町村もありますので、こちらも合わせて確認するようにしましょう。
低出生体重児は自宅で育てられるか?
通常、低出生体重児は産まれたあとしばらくは病院に入院したまま、容態を観察していくことになります。一応の目安として、体重が2000グラム以上あり、在胎内週が十分で、赤ちゃんが自分の力で哺乳びんから母乳を飲める場合には、お母さんの退院と一緒に退院して自宅で育てることも可能ですが、出来れば念のため体重が2500グラムに達するまでは、設備が整った病院でケアしてもらうほうが無難です。
一概に低出生体重児といっても、一人一人の赤ちゃんによって容態はさまざま異なります。赤ちゃんの様子と容態により、保育器、新生児室、新生児集中治療室と、もっとも適当な治療やケア方法を選ぶことになります。お母さんの退院に合わせて、赤ちゃんを自宅に連れて帰りたいという希望があっても、赤ちゃんの容態によっては、とりあえずお母さんだけ退院し、赤ちゃんのほうはそのまま体重が増えるまで入院していなければならないこともあります。
低出生体重児の自宅での育児
早産で生まれた低出生体重児は、お母さんからもらった免疫抗体が少ないため、感染症にかかりやすいといわれています。部屋の温度や湿度を一定に保ち、雑菌が繁殖しにくい環境を作ってあげなければなりません。
赤ちゃんの体は生後約四ヶ月から半年くらで、自分自身で抗体を作れるようになりますが、それまではお母さんからもらった抗体で対処していくことになりますので、赤ちゃんの過ごす部屋は常に清潔に、そして空気が乾燥しすぎないよう、室内の温度は20℃から24℃程度に保つようにします。
またお母さんはもちろんのこと、お父さんや赤ちゃんに触れる人はその前に必ず石鹸で手を洗うようにします。免疫力の低い低出生体重児は、風邪やインフルエンザのウイルスにかかりやすいので、お母さんやお父さん、同居している家族は、外出先から戻ったら服を着替え、必ず手洗い・うがいをする習慣をつけましょう。
まとめ
低出生体重児の定義、原因、病院での治療や育て方などについて幅広くご紹介しました。低出生体重児の中でもとくに注意が必要なのは、早産で生まれた赤ちゃん。体の機能が完全に整っていないため、感染症や合併症にかかりやすく、場合によっては新生児特定集中治療室に入院して治療を行うことになります。
ただし日本の医療は進んでいて、低出生体重児の生存率は非常に高く、早産であってもほとんどの場合、設備の整った病院で適切な治療を受けることにより、体重は徐々に増加していきます。たとえ早産の恐れはないとしても、低出生体重児に関する情報を備えておくようにしましょう。
参考:厚生労働省