出産・分娩前の処置(浣腸 剃毛 導尿 点滴など)について知っておきたいこと

出産

出産予定日が近づくと気になるのが分娩前の処置。浣腸、剃毛、導尿、点滴と耳にするだけで不安になってくることがたくさん。分娩前の処置に関しては、疑問なことや不安な点がたくさんありますが、医師や看護士さんに直接尋ねるのはちょっと恥ずかしい気もします。

陣痛の痛みや出産のトラブルのことも気になる上、浣腸や剃毛といった話を聞くと、不安な気持ちも倍増します。浣腸、剃毛、導尿はできればしたくないけれども、しなければもっと大変なことになりそう、と悩む妊婦さんも多いようです。

浣腸・剃毛をはじめとする分娩前の処置はどうしても必要?したほうがいい・しないほうがいい理由とは?など、分娩前の処置についての疑問点など幅広くご紹介していきますので、参考にしていただければと思います。

分娩前の処置とは?

分娩前の処置とは?

分娩前の処置とは浣腸、剃毛、導尿、点滴などを指します。点滴の目的は、赤ちゃんや母体の安全を確保するためとすぐに理解できますが、では浣腸や導尿、そして剃毛についてはどうでしょうか?

分娩前の処置は分娩の進行をスムーズにするため、また母体と赤ちゃんの安全・衛生のために行われます。どんなときに行うべきか?行ったほうがいいか?行わないほうがいいか?という問題は、立ち会う医師の判断や考え方次第。医学的な処置としては必要なくても、妊婦さんの希望により行われるものもあります。

まずは妊婦さんにとってもっとも気がかりな浣腸、導尿、剃毛について、これらを行う目的や必要性などについて詳しくみていきましょう。

分娩前の浣腸について

分娩前の浣腸について

分娩前の浣腸は以前にはほとんどの病院で慣例的に行われていましたが、最近では必要がない限り行わない病院も増えています。浣腸は通常陣痛が起こり、分娩のために入院したときに病室や陣痛室で行われます。

浣腸に対する抵抗感を持つ妊婦さんは多く、できれば浣腸をしたくないという方がいる一方で、分娩中に便意を催すことに抵抗を感じる妊婦さんも多く、妊婦さんのほうから希望して浣腸が行われる場合もあります。

日本では昔から慣例的に分娩前には浣腸と剃毛が行われてきました。分娩前に浣腸を行ったほうがよいと慣習的に考えられてきた理由を挙げてみましょう

腸にたまった便が分娩を妨げる

腸に便がたまっていると、産道をおりてくる赤ちゃんの妨げになるのでは?との考えから、分娩前に浣腸が行われてきました。

大腸と産道とは非常に近い位置にあるため、便が溜まっていると産道が広がりにくくなる、と考えられてきました。

会陰部への細菌感染のリスクを避けるため

分娩中のいきみにより排便が行われることがあります。分娩中に便が出てしまうのは自然なことですが、便が会陰部についてしまい、不潔になることや、感染症のリスクがあると当時はみなされていました。出産前に排便を済ませておくことにより、このようなリスクが避けられると考えられていました。

便意を催すことで分娩の進行を促す

浣腸のはたらきにより、排便を促すとともに陣痛の進行も促すと考えられていました。大腸が刺激されることより、陣痛も促されるのでは?という考え方に基づいています。

分娩前の浣腸は必要ない?

分娩前の浣腸は必要ない?

以前には浣腸は分娩前の処置としてほとんどすべての病院で行われていましたが、現在では必要がない限り行わないという病院が急増しています。

浣腸の場合、分娩中に便が出てしまわないか非常に不安という妊婦さんが多く、医学的な必要性とは別に妊婦さんの希望によって行う場合も少なくありません。妊婦さん本人の希望がある場合は別にして、現在では分娩前の慣例的処置としての浣腸は、必要なとき以外は行わない病院が増えています。

分娩前の浣腸は必要に応じて行う

医学的な必要性がないにも関わらず、慣例的に浣腸を行うことは現在では格段に少なくなっています。最近の調査研究では、分娩前に浣腸を行うことに医学的なメリットはとくにない、ともいわれるようになりました。

分娩前の浣腸により分娩時間が短縮されるという具体的なデータもなく、赤ちゃんへの感染のリスクに関しても浣腸をする・しないによって、感染のリスクに違いは出ないとのこと。

以上のような点を考慮して、現在では分娩前の浣腸は必要に応じて行うというスタンスが主流です。分娩前の浣腸について、出産予定の病院ではどのようなスタンスを取っているか、入院に先立って必ず確認しておくようしましょう。

分娩前の剃毛について

分娩前の剃毛について

分娩前の剃毛は、いよいよ分娩が近づいてきたころに外陰部の消毒とあわせて行われます。以前には必ずといっていいほど行われていましたが、これも浣腸同様、現在では必要に応じて行うという方針に変わってきています。まずは分娩前に剃毛が行われてきた理由について挙げてみましょう。

分娩前に剃毛を行う理由とは?

分娩前には外陰部をきれいにするために消毒が行われますが、剃毛を行うのもこれと同様に、外陰部をきれいにしておくためと考えられます。

陰毛についた細菌により、赤ちゃんや母体が感染症にかかってしまうことを予防する意味で行われてきました。また以前には会陰切開が行われるケースが多く、剃毛はその際に切開・縫合がしやすいようにとの理由からも行われてきました。

分娩前の剃毛は必要に応じて行われる

分娩前の剃毛は必要に応じて行われる

浣腸同様、分娩前の剃毛処置は以前に比べると減少しています。剃毛を行ったかどうかと感染症のリスクには関連が見られないとのことで、現在では剃毛は必要がある場合にのみ行う病院が増加しています。

剃毛によるメリットが明らかでない上、浣腸同様、剃毛に関しても妊婦さんの心理的な負担が大きく、必要以外には行わないほうがメリットが大きいと判断されます。剃毛が行われる際も全剃毛ではなく、半剃毛で会陰の部分を少し剃る程度というケースもあります。

陣痛が始まる前までは分娩前の処置について非常にナーバスになっていても、実際に分娩台にあがってしまえば、陣痛の痛みが激しく、剃毛されたことにすら気がつかない方もいるようです。聞きにくいこととはいえ、剃毛に関しての疑問や不安なことがあれば、入院前に必ず確認するようにしましょう。

分娩前の導尿について

分娩前の導尿について

導尿とはカテーテルを尿道から膀胱に入れて、尿を取り出すことを指します。分娩時の導尿は、分娩の進行が進み、妊婦さんが分娩台にあがり、自分でトイレに行けなくなってから始めるのが一般的です。

分娩にかかる時間はひとりひとりの妊婦さんによって異なりますが、一般的には初産婦さんで15時間前後、経産婦さんでも7時間前後かかります。数時間から数日まで個人差があります。

分娩の進行には段階があり、始まったばかりのころにはまだ自分でトイレに行けますが、陣痛の痛みが増すと、自分で歩いてトイレに行けなくなることもあります。分娩台にあがっていなくても、妊婦さんが自分で動くことが困難になったときから導尿を開始することもあります。

浣腸・剃毛とともに、かつては導尿も分娩前の処置として、必要性に関わらず慣例的に行われていました。浣腸や剃毛が必要に応じて行われるようになった現在では、導尿に関しても必要に応じて行うことが基本になっています。

分娩時間が長引いた場合や、妊婦さんの体力の消耗が激しく、分娩室に入る前から自力での歩行が困難な場合など、分娩の進行の状態や経過時間、妊婦さんの状態を見計らいながら、必要に応じて導尿が行われます。

分娩後の導尿について

分娩後の導尿について

導尿に関しては分娩中だけでなく、分娩後も行われることが一般的です。分娩後にも導尿が必要な 理由を挙げてみると、まず出産後すぐには自力で歩いてトイレまで行けないこと。

またトイレまで行けたとしても、便座に座っているだけでめまいがしたり、意識が遠のくこともあり、通常出産後数時間は歩かないようにという指示を受けます。

出産後に導尿が必要なもうひとつの理由は尿閉にあります。出産後の尿閉は産後尿閉と呼ばれ、多くの妊婦さんが経験する出産後の症状のひとつです。

産後尿閉とは?

産後尿閉とは膀胱に尿が溜まっているにも関わらず、尿意がなく、排尿できない症状を指します。尿閉は分娩後だけでなく、妊娠中や分娩中にも見られる症状で、子宮やおりてくる赤ちゃんが膀胱を圧迫することにより、膀胱の収縮力が低下することにより起こります。

出産後すぐは、それまで子宮に圧迫されていた膀胱壁の収縮力がまだ弱く、神経機能も乱れていることから尿意を感じにくい。その上骨盤底も弛緩しているため、排尿がうまく出来ない状態になっています。膀胱に尿が溜まることにはリスクがあり、これを予防するためにも導尿が行われます。

膀胱に尿が溜まることによるリスクとは?

出産後は尿意を感じにくく、また膀胱の収縮力も弱まっているため、膀胱に尿が溜まりやすい状態です。膀胱に尿がたくさん溜まると、子宮収縮が妨げられるおそれがあり、弛緩出血が起こりやすくなります。

子宮と膀胱はつながっていますので、膀胱が収縮すると、それにつれて子宮も足側に引っ張られ収縮し、出血も止まるという仕組み。子宮の収縮の妨げにならないよう、自分で排尿できない場合には導尿を行い、膀胱に溜まった尿を取り出す必要があります。

分娩前・分娩中の点滴について

分娩前・分娩中の点滴について

とくにリスクファクターのない分娩でも、分娩中の予期できない緊急事態に備えて、あらかじめ血管確保の点滴を行うことが一般的です。分娩中に予期しない異常出血や血圧の急上昇が起こると、薬剤を注入する必要が生じてきます。

たとえ低リスクの分娩であっても、分娩中になんらかのトラブルが起き、出血過多や血圧の上昇といった緊急事態が生じる可能性はゼロではありません。このような緊急事態に備えて、あらかじめ点滴用の針を血管を入れ確保しておきます。薬剤だけでなく、分娩中に大量失血した場合には輸血も行われます。

リスクのない分娩に関しては、血管確保は絶対必要というわけではありませんが、いざというときのことを考えると、やはり血管を確保しておいたほうが安心というのが一般的な見解。安全な分娩のためには点滴は必要ですが、点滴用カテーテルによる感染症のリスク予防を万全にしてもらうことが重要です。

帝王切開を行う場合の処置

帝王切開は手術ですので、経膣分娩よりも多くの処置が行われます。経膣分娩では行うことの少なくなった剃毛・浣腸はもちろん行いますが、その他にもっとも気をつけるのが血栓症の予防です。

肺塞栓症は、静脈内にできた血液の固まりが血液の流れに乗って心臓や肺に届き、呼吸困難によるショック死を引き起こす病気ですが、麻酔で寝ている時間が長く、血液の流れが分娩前後で急激に変化する帝王切開手術では、肺塞栓症発症のリスクが高いといわれています。

そのため、手術当日は抗生剤だけでなく抗血液凝固剤の点滴を行い、また手術前に弾性ストッキングを着用します。手術中だけでなく術後も血栓発生のリスクは続きますので、病院では術後に更に下肢に加圧式の装置をつけたり、一定時間安静後は体を少しずつ動かすよう指導をします。※参照 日本産婦人科医会

計画無痛分娩の場合

硬膜外麻酔

計画無痛分娩の場合は、分娩前の処置として子宮口を広げるための処置と麻酔をかけるための処置が行われます。無痛分娩の麻酔のかけ方にはいくつか方法がありますが、背骨の中にある脊髄周辺に麻酔薬を注入する硬膜外麻酔が一般的です。脊髄のそばにある硬膜の外側に細いカテーテルを入れて、そこから麻酔の薬剤を注入します。

子宮口はラミナリアという医療機器を使って子宮頸管をゆっくり開いていきます。無痛分娩の際の処置に関しては、通常の分娩とはいろいろ違うことが多いので、わからないことや不安なことは主治医に相談し、詳しく説明を受けておくようにしましょう。

分娩前の処置についての希望

分娩前の処置についての希望

分娩前の医療処置に関しては以前とは異なり、必要に応じて適宜行うというスタンスに変わりつつあります。必要以外は行わないというのが原則ですが、医師の考え方や方針によっては、現在でも原則すべての分娩において分娩前の処置を施す病院もあります。

出産というかけがえのない経験に悔いを残さないためにも、分娩前の処置に関しての希望があれば、出産予定日以前に必ず確認しておくようにしましょう。浣腸や剃毛に関することを尋ねるのに抵抗があるのは仕方ありませんが、聞かないでおいてあとで後悔するのは残念です。

バースプランの提出を求める病院であれば、バースプランの中で自分の希望・要望を伝えることもできます。分娩前の処置に対する病院の方針をあらかじめ確認し、自分の希望も合わせて伝えておくようにしましょう。

まとめ

浣腸・剃毛・導尿をはじめとする分娩前の処置について、それらの処置が施される理由やメリット・デメリットなどについてご紹介しました。浣腸や剃毛といった処置に対しては、心理的な不安や嫌悪感を感じてしまうのが当たり前です。

陣痛の痛みに加えて、分娩前の処置のことを考えるとつい身構えてしまいますが、最近では浣腸や剃毛に関しては必要最小限に留めることが一般的になっています。ただし病院や医師の方針によっては処置を行う場合もありますので、処置に関する疑問点や不安なことはあらかじめきちんと確認しておいたほうが安心です。

※参考 日本産婦人科学会 正常経膣分娩の管理

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