双子や逆子の場合、通常の分娩が無理であると判断されると、予定日を決め帝王切開を行うことになります。子宮を切り開くことにより胎児を取り出す帝王切開、痛みのことや手術におけるリスク、さらには費用や二人目以降の出産のことなど、帝王切開に関しては不安な材料がたくさんあります。
しかし帝王切開の件数は年々増加する一方。高齢出産が増えていることや、母胎や胎児へのリスクが少しでもある場合には帝王切開を選択する病院も増えていることから、年間に行われる帝王切開の件数は、増加の一途を辿っています。
帝王切開とは
帝王切開手術とはなんらかの原因により、通常の膣分娩が困難な場合に施される手術で、妊婦さんの子宮を切開することにより胎児を取り出す手術を指します。
帝王切開が施されるのは、通常の出産方法である経膣分娩では母体、胎児、あるいはその両方に生命の危険がある場合、また何らかの事情により、事実上通常分娩が不可能な場合に行われます。
帝王切開という言葉の由来
帝王切開という名称は、ラテン語、ドイツ語、フランス語などから別々に経由した言葉から翻訳されたもので、言葉の由来には諸説あり、複雑な過程を経て今日に至っています。
帝王切開というと、通説では「カエサル(ユリウス・カエサル帝)」が帝王切開により誕生したことによる、とされていますが、これは事実とは異なるようです。カエサルとはそもそもローマ時代に、母胎から「切り離されたもの」の意で用いられたもので、ここからさらに紆余曲折を経て、最終的に帝王切開caesarean sectionという名称に落ち着いたとされています。
帝王切開の必要性
帝王切開が必要とされるのは、そのまま通常の膣分娩に踏み切ると、母胎や胎児に生命の危険があると判断された場合です。
具体的な例としては、逆子や双子や三つ子など多胎の場合や、前置胎盤や子宮の奇形、子宮筋腫や高齢出産の場合など。そのまま膣分娩を行うと母体や胎児に危険が及ぶ場合になります。
また高齢出産以外でも、膣壁が固くなっている場合や子宮口に何かしらの問題がある場合には、帝王切開が選ばれる可能性があります。前回の出産が帝王切開だった場合にも、ほとんどの場合大事を取って次の出産も帝王切開で出産することになります。
帝王切開の種類
帝王切開には二種類があります。一つはあらかじめ日にちを決めて行われる予定(選択)帝王切開、もう一つは緊急的に帝王切開で胎児を取り出す緊急帝王切開です。
予定帝王切開が行われるのはすでに述べたように、多胎妊娠、高齢出産、骨盤位(逆子)、子宮筋腫の位置が悪い場合、前置胎盤などです。
緊急帝王切開が行われるのは、胎児が呼吸困難に陥った「胎児機能不全」や、陣痛が非常に弱く、子宮がうまく収縮しないためにそのまま自然分娩ができない場合などです。
他にも分娩が非常に長引き、陣痛促進剤を用いても出産が長引き、妊婦さんと赤ちゃんの体力が続かない場合などに、医師の判断で緊急帝王切開に持ち込まれます。
帝王切開の流れ
予定帝王切開の前日
予定帝王切開の場合は、あらかじめ出産予定日を決めておいてから、帝王切開に臨むことになります。
予定帝王切開の基本的な流れとは、まずは予定日に先立ち、血液検査や心電図、赤ちゃんの状態などを確認するための検査から始まります。また担当医師や看護師から、帝王切開に関する説明や注意を詳しく受けることになります。
帝王切開は麻酔をかけて行われますので、誤嚥を予防するため、予定日前日は夕食後は食事をストップし、また当日は朝から飲み物の摂取も控えます。
予定帝王切開における麻酔について
入院は予定日の前日に行われることもあれば、予定日当日に入院することもあります。入院日や細かい手順に関しては、病院ごとに定められていますので、予定帝王切開が決まったら詳細について必ず確認しておくようにしましょう。
手術前に必要な準備が揃ったら、麻酔をかけることになります。麻酔は医師の判断により全身麻酔か、あるいは脊椎から麻酔剤を注入する腰椎麻酔になります。
腰椎麻酔は全身麻酔に比べると効き目が弱いため、短時間で終わる予定帝王切開手術にとくに向いています。
全身麻酔になるか、脊椎麻酔になるかは医師の判断と妊婦さんや赤ちゃんの容態にもよります。脊椎麻酔の場合は、全身麻酔と違い意識がありますので、赤ちゃんの産声を聞くこともできます。
切開の方法について
切開にも二種類があり、お臍の下からおなかを縦に切る縦切開と、恥骨の上を横方向に切り開く横切開があります。
現在では美容的な観点から横切開が主流ですが、緊急的に帝王切開が行われる場合は縦切開が用いられます。これは縦切開のほうが手術にかかる時間が短くて済み、手順も比較的シンプルなためです。
予定帝王切開のように、あらかじめすべての要素が考えられていて、危険性も少ない手術では、術後の見栄えを考え、傷跡の目立ちにくい横切開が選ばれることがほとんどです。
予定帝王での赤ちゃんの取り出し
切開したあとは、赤ちゃんを包んでいる卵膜を破り、赤ちゃんを取り出します。麻酔による悪影響が赤ちゃんに及ばないよう、手術はできるだけ短時間で終わるよう作業が進められます。
帝王切開はほとんどの場合、始まってから約30分間から一時間以内に終了しますが、場合によっては始まってから五分以内に終了することもあります。
胎盤の処理と縫合について
赤ちゃんを取り出したあとは、胎盤を取り出し、子宮の中身をきれいにします。その後子宮を吸収糸と呼ばれる医学用糸で縫合し、出血がおさまったことを確認します。望ましくない癒着を防ぐために、特殊な医学用のフィルムで子宮の傷口を覆い、最後に腹部を医療用糸かステープラー(ホッチキス)で縫い合わせ、手術は終了します。
おなかを切開し、赤ちゃんを取り出す際には麻酔がきいていて痛みを感じなかったものの、子宮や腹部の皮膚を縫合する際に再び痛みを感じることがあります。麻酔の効き目が弱まった場合には、この時点で再び弱い麻酔をかけることもあります。
帝王切開後に気をつけること
無事に帝王切開手術が終わり、何も異常な点がないか確認ができたら、赤ちゃんと対面することも出来ます。麻酔が切れてしまうと傷口が痛みますので、その場合は痛み止めを処方してもらうようにします。
長い間ベッドに横たわっていると、肺塞栓症にかかる恐れがありますので、尿道カテーテルが外されたら出来るだけ早いうちに、自分で歩いてトイレに行くようにします。
シャワーに関してはおなかの縫合部分の様子を見てからになりますが、抜糸やホッチキスが外されたら基本的にはシャワーをしても構わないということになります。
入院はとくに問題がなければ一週間前後という場合がほとんどですので、この間赤ちゃんのケアについて看護師さんや助産婦さんからアドバイスをもらっておくようにしましょう。
帝王切開後の悪露(おろ)
経膣出産の場合と同様、帝王切開後も悪露があります。ただし帝王切開の場合は赤ちゃんを取り出したあと、胎盤や子宮の中身をきれいにしていますので、通常分娩に比べると悪露の量は少ないのが特徴です。
しかし子宮の残留物を完全にきれいに取り出すことは不可能ですので、残ってしまった細かい残留物は悪露として少しずつ分泌されます。また切開により出来た傷あとから多少の体液が分泌されることもありますので、子宮の内容物に加えて、これらも悪露として排出されます。
帝王切開の場合、経膣出産よりも悪露の量は少ないことがほとんどですが、その代わり期間は長く続くことがあります。痛みを伴う、匂いがある、などの異常を感じる際は産婦人科で診療を受けるようにしましょう。
帝王切開のリスク「肺塞栓症」について
帝王切開が選ばれるのはそれなりの理由があるからこそ、つまり経膣分娩で出産を行うのは無理だと判断されたからに他なりません。帝王切開にも多少のリスクはありますが、これらはすべて、経験のある医師や看護師の常在する設備の整った病院で行いさえすれば、回避できるものばかりです。
帝王切開のリスクとして挙げられるのは、手術後長い時間ベッドに横たわっていることから生じる「肺塞栓症」肺塞栓症の典型的な症状は息苦しさや足に腫れや痛みが生じること。なんらかの事情により入院期間が延びる場合には、出来るだけ歩行を増やすようにし、血流が滞らないようにします。
胎児急変や子宮状態の悪化による緊急帝王切開
妊婦さんやおなかの赤ちゃんの状態を医師が総合的に判断して決定される帝王切開。逆子や前置胎盤といった理由だけでなく、定期健診で胎児の心拍数が弱まっていることから、急遽帝王切開で赤ちゃんを取り出すこともあります。
医学技術や設備が発達した現代では、以前であれば予測がつかなかったことも事前に分かるようになり、出産に伴うリスクはますます減少しています。逆子や多胎といった理由以外にも、胎児の容態や子宮の様子によっては、その場で緊急的に帝王切開が行われる場合があります。
帝王切開は健康保険の適用に
通常出産は疾病とはみなされないため、健康保険の適用を受けることは出来ませんが、帝王切開の場合は医療行為に相当しますので、健康保険が適用されます。
帝王切開手術自体は保険の適用があり、一部負担で済みますが、帝王切開の場合は入院期間が通常の出産より長引きますので、その分余計な費用がかかる場合があります。
帝王切開の費用について
帝王切開手術にかかる費用は約22万円ほど、健康保険が適用されますので、妊婦さんの負担はこの金額の3分の一になります。これ以外にも入院費用や薬、生まれた赤ちゃんのケアにかかる費用などがあり、健康保険が適用されるからといって、出産費用がほとんどかからないとは限りません。
一般的にいって最終的には、帝王切開での出産の費用も普通分娩での出産費用もあまりかわらない金額におちつくようです。
医療保険の給付について
医療保険に入っている方は、自然分娩の場合は給付金はもらえませんが、帝王切開手術による入院に対しては給付金がある場合もあります。これは契約内容により異なりますので、すでに医療保険に加入している方は給付金の支給条件や付帯条件などについて確認するようにしましょう。
一人目の赤ちゃんが帝王切開だった場合、二人目以降の出産も帝王切開になる可能性が非常に高いため、新しく医療保険に加入する場合、帝王切開での出産でも給付金が支給されないという条件がつけられることがありますので、新しく保険に加入する際には注意しましょう。
出産育児一時金
出産をした場合、出産育児一時金が支給されます。金額は赤ちゃん1人に対して42万円、支給が受けられる条件は妊婦さん自身が健康保険に加入しているか、配偶者や両親の被扶養者になっている場合で、妊娠四ヵ月目以降の出産に対して支給されることになっています。
これに加えて、医療費控除の申請が出来るように、念のため、支払い金額を証明できるようなレシートや領収書を保管しておくようにしましょう。
二人目の子供の出産方法について
一人目の赤ちゃんを帝王切開で出産した場合、二人目以降の出産も帝王切開になる可能性が非常に高くなります。どうしても二人目の赤ちゃんを経膣分娩したい場合には、まず医師に相談し、しっかりと診断してもらう必要があります。
帝王切開により子宮に傷がつき、壁が薄くなっている状態では、経膣分娩を行うと最悪の場合、子宮破裂というトラブルに見舞われてしまいます。二人目以降の出産に関しては、とにかく医師とよく相談することが肝心です。
VBAC法とは
一人目を帝王切開で出産した後に、二人目を自然分娩で出産する事をVBAC法といいます。やっぱり自然分娩をしたいと願うお母さんにとっては朗報ですが、思わぬトラブルを避けるためにこの方法を選択しない病院が多いです。
VBAC法を行う病院でも、逆子でないこと・臨月であること・単胎児であること・子宮筋膜までに及ぶ傷跡がないこと等の条件をクリアしている妊婦さんのみが対象となっています。
特に前回の帝王切開で縦切開を行った方や既に2回の帝王切開手術を受けている方は、分娩中に手術跡が避けて子宮破裂となる確率が高いので、どの病院であってもVBAC法を受けられません。どうしても自然分娩を望む方は、よく担当医と話し合うようにしましょう。
次回以降の妊娠のタイミング
帝王切開で出産したあとは、最低でも次の妊娠まで一年間は時間をおくことが勧められています。帝王切開はおなかと子宮を切り開き、赤ちゃんを取り出すという手術ですので、子宮の傷が自然に回復するまで待つことが、次回以降の妊娠・出産を安全に乗り切るための必須条件となります。
次回以降の妊娠に関しては、慎重に待機期間をおき、計画的に妊娠に臨むようにしましょう。
帝王切開で何人まで出産できる?
帝王切開で産めるのは2人まで、というのが不文律のようになっていますが、専門家や海外では次の妊娠まで1年空けたら何人産んでも大丈夫となっています。
ただし、最も心配されているのが子宮の傷が回復する時に他の臓器と癒着してしまう事で、帝王切開の数が多ければその分癒着する確率も高くなり、日常生活や次の妊娠に悪影響を与える可能性が出てきます。
また、子宮を切開すると、その傷から子宮膜が薄くなっていきます。子宮膜が薄くなれば、子宮破裂や早産といった緊急事態にも発生しかねません。現在は癒着防止技術も発達しているので帝王切開で2人以上産んでいる方も多いですが、妊娠のたびにトラブル発生率が高くなるのを承知しておきましょう。
帝王切開出産による心の傷
逆子や胎児の容態、子宮の状態など、帝王切開が選ばれるにはそれなりの理由があります。出産予定日に先立ち、帝王切開が決められるにしろ、予期せざる事態により急遽帝王切開が行われるにしろ、妊婦さんの中には帝王切開で赤ちゃんを出産したということに対して、後ろめたい思いをする方もいます。
また周囲の人も意図的に傷付けようという気持ちはないものの、帝王切開での出産に対して「産みの苦しみから逃げた。」「楽をした。」といったニュアンスで話すことがあり、帝王切開での出産を終えたお母さんを傷つけることがあります。
帝王切開で出産したのは決して楽をしたわけでも、逃げたわけでもありません。出産後の鬱に加えて、分娩という貴重な体験をすることが出来なかったと苦い思いを抱いていては、育児を楽しく行うことも出来ません。自分を責めるのは筋違い、帝王切開での出産もまた貴重な出産体験であることを自覚しましょう。
ここまでのまとめ
予定帝王切開では通常、胎児の成長や母体の容態を見て、第37週以降にあらかじめ予定日を決め、帝王切開で胎児を取り出すことになります。
逆子が直らずに帝王切開が決まった場合、高齢で通常分娩に挑むリスクを回避したい場合など、帝王切開での出産はますます増える一方です。帝王切開に関して知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介しましたので、参考にしていただければと思います。