帝王切開の流れや段取り、手術時間について知っておきたいこと

帝王切開の流れや段取り、手術時間について知っておきたいこと 妊娠後期

予定帝王切開の場合は、事前に手術日が決められていますが、緊急帝王切開の場合は、まさに緊急的に手術が行われるもの。自然分娩で出産するものと思っていたのに、突然帝王切開での出産になるケースも多く、突然の緊急事態に不安と戸惑いを感じながら、帝王切開での分娩にのぞむお母さんも少なくありません。

帝王切開での出産は年々増加傾向にあり、現在では出産全件数のうち、19.7%の割合で帝王切開が行われています。経膣分娩を予定されている方でも、万が一のために帝王切開の流れや段取りを把握しておくことが必要です。※参照1

帝王切開にかかる時間はどのくらいなの?手術の流れが知りたい!全身麻酔になるの?など、帝王切開手術の所要時間や流れについて知っておきたい情報をご紹介します。ぜひ参考にしてください。

帝王切開手術による分娩とは?

帝王切開手術による分娩とは?

帝王切開手術とはおなかを切開することにより、おなかの赤ちゃんと胎盤などの子宮内容物を取り出す手術。おなかの赤ちゃんや妊婦さんの状態に問題があり、そのまま自然(経膣)分娩を行うと、胎児や母体へのリスクが生じる、と判断された場合に行われます。

帝王切開手術には2種類があります。まずは帝王切開の種類について詳しくみていきましょう。

予定帝王切開の場合

予定帝王切開の場合

予定帝王切開とはあらかじめ手術日を決めておき、帝王切開を行うことを意味します。予定帝王切開になるのは、双子や三つ子などの多胎、前置胎盤、骨盤位(逆子)、児頭骨盤不均等、巨大児、HIVや性器ヘルペスなどの感染症、過去の帝王切開手術歴など。自然(経膣)分娩が困難な場合、自然分娩を行うとおなかの赤ちゃんと母体にリスクがある場合に、医師の判断により行われます。

予定帝王切開は時期はいつ頃?

予定帝王切開の手術日はとくに問題がない限り、通常妊娠37週、38週、39週に行われます。正期産は妊娠36週0日目からですので、37週目以降であれば、おなかの赤ちゃんも子宮外の環境に適応できるほど十分に成長しています。母体と胎児の状態をしっかり観察しながら、帝王切開を行う時期が定められます。

帝王切開予定日前に急に陣痛がおこった場合は、すぐに病院に連絡し、帝王切開を受けることになります。予定帝王切開が決まっている場合には、陣痛がおこったときの対応について、必ず前もって医師に確認しておきましょう。

緊急帝王切開の場合

緊急帝王切開の場合

緊急帝王切開とは、自然分娩を予定していたものの、母体や胎児の状態が急変したり、分娩の進行が思わしくないため、緊急的に帝王切開を行うことを指します。緊急帝王切開になるケースはさまざま。

その中のいくつかを挙げてみると、おなかの赤ちゃんの心拍数が下がる胎児機能不全、常位胎盤早期剥離、微弱陣痛、分娩遷延、妊娠高血圧症候群など。また帝王切開を予定していたものの、手術予定日よりも前に陣痛や破水が起こってしまった場合にも緊急帝王切開が行われます。

帝王切開のための入院

帝王切開のための入院

帝王切開の種類についてみてきましたが、今度は手術前の段取りから当日の流れまで、ポイントごとに詳しくみていきましょう。

帝王切開手術前に行うこと

予定帝王切開の場合、通常手術前日に入院し、帝王切開のリスク・手術内容および麻酔についての詳しい説明が受けます。手術に関する疑問があれば、このときに医師に尋ねて不安を解消しておきましょう。

また妊婦さんの血圧・体重測定に加えて、内診・問診、超音波検査なども行い、母体と胎児の状態や子宮頚管の開き具合などを判断します。

手術の同意について

手術の同意について

入院前に手術同意書の提出が済んでいない場合はこれを提出し、麻酔によるトラブルを防ぐため、前日の夜から絶食に入り手術当日に備えます。

緊急帝王切開の場合は、予期せぬ事態が生じたために緊急に手術を行いますので、手術に関する説明が口頭で行われることがあります。妊婦さんの意識がしっかりしている場合には、妊婦さん本人が同意書にサインできますが、妊婦さんの意識がない場合には、配偶者や両親の同意書が必要になります。

近親者の方が側にいない場合、電話で同意を確認し、その上で同意書を持参するように指示されます。また病院や産院の中には、臨月に入る前に緊急時同意書へのサインを求めるところもあります。

帝王切開のリスクとトラブル

帝王切開には麻酔トラブルをはじめ、弛緩出血や血栓症(肺塞栓)など、一定のリスクがあります。しかしながら、帝王切開が選択されるのは、経膣分娩を行うと危険が伴うから。そのような状況下で帝王切開を行わない場合、さらに多大なリスクが及ぶ可能性があります。

帝王切開手術の流れ

帝王切開の流れについて、ひとつひとつみていきましょう。予定帝王切開でも、緊急帝王切開でも、当日の手術の流れ自体は基本的に同じ。自然分娩を予定されている方も、念のため帝王切開の流れを確認しておきましょう。

赤ちゃんの心拍数を確認

赤ちゃんの心拍数を確認

赤ちゃんの状態を正確に把握するため、NST(ノンストレステスト)を行い、赤ちゃんの心拍数および子宮の収縮具合を確認します。

絶食に入る

絶食に入る

予定帝王切開の場合、健康診断と同じように前日の夜から絶食に入ることが一般的ですが、当日の朝までなら水のみ許可されることもあります。

絶食絶飲に関しては麻酔のかけ方や妊婦さんの状態、病院の方針によって異なりますので、気になることがあれば、入院時に必ず確認しておきましょう。緊急帝王切開の場合は、手術を行うと決定された瞬間から絶食に入ります。

帝王切開前の処置

帝王切開前の処置

切開するおなかや陰部に毛があると、縫合する際の妨げになるだけでなく、感染症などのおそれもありますので、手術前に剃毛が行われる場合があります。また腸の中をあらかじめきれいにしておくために、下剤や浣腸を行うこともあります。

手術着に着替え

身に着けているものはすべて取り外し、手術着に着替えます。

点滴で血管を確保 点滴をする

点滴で血管を確保 点滴をする

帝王切開中に急に低血圧になったときに備え水分補給のため、また血液凝縮を防ぐために点滴を行います。点滴で血管を確保することは、万が一輸血や薬剤の投与が必要になったときにも役立ちます。点滴は手術中だけでなく、手術後食事がとれるようになるまで使われます。

尿道カテーテルを挿入する

手術中に膀胱に尿がたまりぱんぱんになると、手術の最中に膀胱を傷つけてしまうおそれがあります。手術前に尿道口にやわらかく細いカテーテルを挿入し、カテーテルをとおして尿を排出させます。手術後24時間程度は歩行しないことになっていますので、カテーテルは点滴同様、自分で歩いてトイレに行けるようになってはじめてはずします。

弾性ストッキングの着用

分娩終了後は静脈血栓塞栓症になりやすい状態にあります。帝王切開での分娩では横たわっている時間が長く、手術後もしばらくは歩行ができません。

また麻酔トラブル防止のため、水分の補給が不足することから、静脈血栓塞栓症を発症しやすいため、これを予防するために足を加圧するはたらきのある弾性ストッキングを着用します。※参照1

麻酔をかける

麻酔をかける

麻酔の種類ですが、緊急帝王切開で一刻を争う場合は全身麻酔になりますが、予定帝王切開の場合は胸から下に効き目があらわれる局所麻酔が一般的。帝王切開で使われる麻酔の種類についてみていきましょう。※参照2

局所麻酔について

局所麻酔の種類は2種類、脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔があります。またもうひとつ、これらの方法を合わせた脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔という方法もありますが、どの方法を使用するかは、妊婦さんの状態を考慮しながら決められます。

脊髄くも膜下麻酔とは、背中から細い長い針を入れ、脊髄くも膜下腔に麻酔剤を注入する方法を指します。痛みを感じないように、まずは背中に麻酔薬を打ちますので、痛みはそれほど気になりません。脊髄くも膜下麻酔は効き目が早く、5分程度で効果があらわれます。

硬膜外麻酔とは、背中に医療用の特殊なチューブを挿入し、硬膜外腔に麻酔薬を注入していく方法をさします。挿入したチューブをとおして麻酔剤を追加することができるので、麻酔の効果が切れることがありません。

全身麻酔について

全身麻酔は点滴をとおして麻酔が効きますので、手術の間中意識がない状態です。一瞬にして麻酔の効果があらわれますので、緊急帝王切開の中でもとくに緊急度の高いときに使われます。

おなかを切開する

おなかを切開する

おなかの皮膚を切開し、その下の脂肪部分にもメスを入れます。切開の方法にはヨコ型とタテ型がありますが、通常は傷跡が目立たないヨコ型に切開します。反対にタテ型のほうは傷の治りが早いという特徴があり、また手早く切開できるため、緊急の際に使われます。

赤ちゃんを取り出す時間は? 手術の時間は?

赤ちゃんを取り出す 時間は?

子宮壁を切り、赤ちゃんと胎盤を取り出します。おなかの切開から赤ちゃんを取り出すまでの時間は数分から10分程度。

手術に要される時間については、1時間程度ですが、手術の進行状況や出血の程度によってはもう少し時間がかかることもあります。

全身麻酔の場合は残念ながら眠っている状態ですので、生まれた瞬間の赤ちゃんを見ることができませんが、局所麻酔の場合には意識がありますので、生まれた赤ちゃんを見ることができます。

切開部分を縫合する

赤ちゃんと胎盤を取り出したら、切開した部分を縫合します。縫合の仕方にもいろいろな種類がありますが、一般的には吸収糸を用いて縫合します。他にも医療用ステープラー(ホッチキス)や接着剤を使うこともあります。

手術後はベッドで過ごす

手術後はベッドで過ごす

手術後はまだ麻酔がきいている状態ですので、ベッドの上で横たわったまま過ごします。点滴と尿管は手術後24時間はそのままつけたまま。歩行が許可されたら、尿管を外します。

経膣分娩の場合は5、6日間で退院が許可されますが、帝王切開の場合はそれよりも2、3日余計に日数が必要。退院できるのは手術後8、9日前後になります。

まとめ

帝王切開の段取り・流れ・手術時間について知っておきたい情報を幅広くご紹介しました。帝王切開による分娩は年々増加傾向にあり、自然分娩を予定していても、母体と赤ちゃんの状態によっては、急遽帝王切開手術になる可能性も大いにあります。突然のトラブルに慌てないためにも、帝王切開の流れについての情報を養っておくことも大切です。

※参照1   厚生労働省 医療施設・病院報告の概況 
※参照2 日本産科麻酔学会 帝王切開の麻酔Q&A