妊娠初期はつわりやホルモンバランスの変化のせいで、体調管理が難しい時期。おなかはまだ大きくなっていませんが、体に急激な変化が起こっているため、妊娠前にはなんでもなかったことにも違和感を感じやすくなっています。
寝る姿勢もそのひとつで、妊娠前までは寝る姿勢のことなんて考えたことのない方も、妊娠した途端に睡眠中の姿勢が気になるようです。一般的に妊娠中はうつぶせで寝ないほうがいい、といわれていることがその原因。妊娠初期はまだおなかが大きくなっていませんが、それでもうつぶせに寝ないほうがいいのでしょうか?
今回は妊娠初期のうつぶせ寝についていろいろな情報を幅広くご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
妊娠初期にうつぶせで寝ても大丈夫なの?
妊娠中はうつぶせで寝ないほうがいい、といわれていますが、これはおなかが大きくなってからのこと。妊娠初期の段階から気にする必要はありません。妊娠初期に関しては、妊婦さん自身が不都合に感じないのであれば、うつぶせ寝でも、仰向け寝でも、どちらでもかまいません。
妊娠初期にうつぶせで寝ると、おなかの赤ちゃんへの悪影響があるのでは?と不安に感じる方もいるようですが、妊娠初期のうつぶせ寝が胎児に直接悪影響を与える、という医学的なエビデンスはありません。妊婦さんが寝方に注意しなければならないのは、胎児が成長し、子宮が大きくなってからのこと。妊娠初期から寝る姿勢に神経質になるのは、あまり意味がありません。
妊娠初期の寝方でもっとも大切なことは、妊婦さんにとって休みやすい姿勢を選ぶということ。うつぶせ寝でも、仰向け寝でも、あるいは体の片側を下にする寝方でも、妊婦さんにとってもっとも快適な寝方をすることが大切です。ここで妊娠初期の妊婦さんの体の状態や過ごし方についてみていきましょう。
妊娠初期の妊婦の体の状態と寝る姿勢
妊娠初期とは妊娠していると診断されたときから、妊娠15週目までの期間をさします。妊娠初期の辛い症状といえば、つわり。妊婦さんの大多数が経験するといわれるつわりですが、つわりの症状や度合いは妊婦さん一人一人違っています。
吐き気や嘔吐といった典型的な症状以外にも、全身の倦怠感、唾液の量の増加、眠気、頭痛、食べ物の好みの変化、においに敏感になること、食欲不振などの症状があらわれます。
妊娠初期のつわりはいつからいつまで
妊娠初期のつわりは、大体妊娠5、6週目頃から始まり、妊娠12週から16週目頃にはおさまります。妊娠16週目からは安定期とよばれていますが、安定期に入る頃にはつわりも一段落。食欲も出てきて、妊娠中をとおてもっとも体調が安定する時期になります。
安定期とよばれるのは、お母さんと赤ちゃんをつなぐ胎盤が完成することから。胎盤が完成する時期になると、大多数の妊婦さんはつわりもおさまり、比較的過ごしやすくなります。
妊娠初期の憂鬱な気分
妊娠初期は周囲の人から見ると妊婦さんとは分からないほど、体型にはほとんど変化はありません。しかし妊婦さんの体には大きな変化が起こっています。ホルモン分泌の変化もそのひとつで、その変化に体がうまく適応できないこともあります。
またつわりで気持ちが悪く、体調を崩しやすいことから、自律神経のバランスも乱れがち。妊娠を待ちわびていた方でも、妊娠中はわけも分からずに憂鬱な気分に襲われることもあります。妊娠中のうつは決してめずらしいものではなく、多くの妊婦さんが経験する症状です。
妊娠初期の睡眠不足や体の不調について
妊娠すると食事や生活習慣の面でいろいろな制約を受けます。つわりのせいで、食事の時間が不規則になり、食べられないものが増えるため、栄養バランスが悪くなることも妊娠初期の特徴のひとつ。一日に何度も嘔吐してしまい、体力も消耗されます。
つわりの症状がひどい妊婦さんの場合、昼間だけでなく、夜間も吐き気や気持ち悪さが続き、質のよい睡眠を取れずに寝不足になる方も。夜間の睡眠が十分でないため、昼間に睡魔に襲われ、うたた寝や昼寝をする妊婦さんも多くなります。
妊娠初期の寝る姿勢について考える際には、夜間の睡眠だけでなく、昼寝やうたた寝のことも考慮しなければなりません。
妊娠初期の寝る姿勢 赤ちゃんに悪影響があるの?
妊娠初期の寝方は妊婦さんが寝やすい姿勢でかまいません。うつぶせ寝で寝ると、おなかの赤ちゃんに悪影響があるのでは?と不安に思う方もいるようですが、これはまったくの心配しないでいい事です。
妊娠初期は仰向けでも、うつぶせでも、ご自分にとって快適に感じる姿勢が望ましいといえるでしょう。
妊娠初期の胎児はお母さんの子宮の中でしっかりと保護されていますので、寝方次第で流産のリスクが高まることはありません。妊娠初期は流産の可能性がもっとも高い時期で、妊娠12週目までに起こる流産が、全体の約8割を占めています。
初期の流産の原因は受精卵に先天的な問題がある場合がほとんどで、妊婦さんの運動、生活上の動き、仕事をすることなどによって流産が起きることはほとんどない、といわれています。
妊娠初期は寝やすい姿勢を選ぶことが大切
妊娠初期にうつぶせで寝たからといって、おなかの赤ちゃんが悪影響を受けることは、まずないといっていいでしょう。ただしうつぶせ寝をしていて、おなかのあたりに違和感を感じる場合には、他の寝方を試すようにしましょう。おなかの痛みや張りに加えて、出血がある場合には病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。
妊娠初期の寝る姿勢で大切なことは、妊婦さん自身がもっとも寝やすい姿勢を選ぶこと。仰向け寝、横むき寝、うつぶせ寝と寝方にはいろいろな形がありますが、寝方にこだわらず、もっとも熟睡しやすい姿勢を探すことが大切です。※参照1
妊娠中の睡眠の体勢でいいものは?
妊娠中の睡眠の体勢といえば、シムスの体位。シムスの体位とはアメリカの医師J・マリオン・シムスが考案した姿勢で、半腹臥位とよばれることもあります。この姿勢はおなかが大きくなった妊婦さんだけでなく、高齢者、入院患者さん、気道を確保する必要がある患者さん、さらには直腸検査をする際に取られる姿勢です。
シムスの体位を取ると、体に負担をかけずにゆっくりと休息することができます。シムスの体位とはどんな寝方なのか、具体的にみていきましょう。
シムスの体位やり方は
体の左側を下にして横たわる姿勢になります。左足は楽にまっすぐ伸ばし、右足は膝から曲げ、体の横に置きます。このとき左手は体の後ろに伸ばすか、頭の側に曲げておきます。右手は軽く曲げ、体の前におきましょう。
これがシムス位の基本の姿勢ですが、慣れていない場合、この姿勢が取りづらいこともあります。このような場合には抱き枕やクッションなどを体の前に抱き込むといいでしょう。
また肩、腰、足、頭など、体の一部分を他の部分よりも高くして寝ると、楽に感じることもあります。座布団を利用して、違和感を感じる場所の位置を少し高くしてもいいでしょう。どんな体勢を取るともっとも楽に感じるか、いろいろと試してみましょう。
どちら側を下にするべき?仰臥位低血圧症候群とは?
妊婦さんがシムスの体位を取る際には、体の左側を下にするといい、といわれています。その理由は背骨の右側にある下大静脈。下大静脈とは体の中でもっとも大きな静脈で、下半身から心臓に戻ってくる血液が集まる大きな静脈です。
妊娠後期に妊婦さんが、おなかの右側を下にして寝ると、大きくなった子宮がこの下大静脈を圧迫し、一時的に血圧が低下する症状がみられます。これは仰臥位低血圧症候群と呼ばれるもので、心拍数が減り、低血圧が生じます。
妊婦さんは右側を下にして寝ないほうがいい、といわれるのはこのことに理由がありますが、妊娠初期の場合はまだ子宮も大きくなっていませんので、仰臥位低血圧症候群のリスクはほとんどありません。
妊娠初期の寝方は左側でも右側でも、妊婦さんがもっとも快適で寝やすいと感じる方向に体を向けてかまいません。※参照2
妊娠初期の仰向け寝の姿勢は大丈夫?
妊婦さんは仰向け寝もしないほうがいいという話がありますが、この点についてはどうでしょうか?仰向け寝が望ましくない、とされる理由もまた、仰臥位低血圧症候群にあります。体の右側を下にする姿勢同様、仰向けになると、子宮の重みがそのまま下大静脈にかかります。
また下大静脈だけでなく、腰やおなかに子宮の重みがかかりますので、腰痛がひどくなる妊婦さんも。仰向け寝はおなかが大きくなった妊婦さんにはお勧めできません。しかし妊娠初期の妊婦さんは、子宮の大きさも重みもまだそれほどありませんので、仰向け寝のリスクはほとんどありません。仰向けに寝てもつらくなければ、仰向けで寝てもかまいません。
妊娠初期の昼寝の仕方は?
妊娠初期のつわりの症状の度合いは、妊婦さんひとりひとり違っています。つわりの症状が比較的軽い方もいれば、一日中吐き気と嘔吐に悩まされる方も。食事のタイミングも不規則になり、食べられないものが増えるせいで、食生活も乱れる時期です
またホルモン分泌の変化のせいで、体が熱っぽく、夜間の寝つきが悪くなる方も。夜間に良質な睡眠が取れないため、昼間に眠気を催す方も多いのが、妊娠初期の特徴です。
妊娠初期の昼間に眠気を感じたら、仮眠を取り、体力を回復させることが必要です。ただし昼間にたっぷり睡眠を取ると、夜になっても目がさえて寝付きが悪くなり、逆効果。妊娠初期の昼間に仮眠や昼寝をする際には、時間を区切り、たくさん寝すぎないようにすることがポイントです。
布団を敷いて寝ると寝すぎてしまうようであれば、椅子やソファに楽な姿勢で座ったまま寝てもいいでょう。その際に大切なことは、寝る姿勢を考えること。楽な姿勢ですわり、寝ている間に体を冷やさないように注意しましょう。
机に突っ伏して寝るのは大丈夫?
昼間眠気に襲われ、おもわず机に突っ伏して寝てしまった。こんな経験をしたことはありませんか?机の上に突っ伏して寝ると、おなかに圧力がかかってしまう気がしますが、妊娠初期に突っ伏して寝るのは大丈夫なのでしょうか?
机に突っ伏して寝ると、起きたときに体のいろいろな部分に痛みや違和感を感じることがあります。これは無理な姿勢を取り続けたせい。これが原因でおなかの赤ちゃんに直接悪影響が及ぶわけではありませんが、おなかを折り曲げた姿勢で寝ることは、あまりお勧めできません。
不自然な体勢を取ると、負担がかかる部分の血流が悪くなり、むくみが生じるおそれも。妊娠中はプロゲステロンの影響により、体にむくみが生じやすい状態にありますので、血流を悪化させるような体勢は取らないようにしましょう。
机でデスクワークや作業をしている際に眠くなったら、そのまま突っ伏して寝たりせず、仮眠を取りやすい場所に移動し、楽な姿勢を取りましょう。
妊娠初期のマッサージなどの姿勢は?
妊娠初期に腰痛やむくみを感じるために、マッサージを受ける場合はどうでしょうか?マッサージを受ける際にうつぶせ寝をするのは大丈夫でしょうか?
妊婦さんがマッサージを受ける際には、必ず妊娠していることを告げなければなりません。マッサージサロンによっては、妊婦さんへの施術を行わないところも多く、妊娠中のマッサージに関しては注意が必要です。
おなかが大きくなった妊婦さんに関しては、うつぶせ寝でマッサージを受けることはNG。妊婦さんへのマッサージは部分施術が基本になります。妊娠初期にうつぶせ寝でマッサージを受けることに対しては、いろいろな意見がありますので、妊娠中にマッサージを受けたいと思ったら、まずはかかりつけの産婦人科医に相談し、許可をもらったほうが安心です。
体のツボの中には、妊婦さんには行ってはいけないものもあります。妊娠初期はとくに体が敏感になっていますので、体に強い刺激を受けることはお勧めできません。
まとめ
妊娠初期のうつぶせ寝やうつぶせ姿勢について知っておきたい情報を幅広くご紹介しました。妊娠中のうつぶせ寝は基本的にNGといわれていますが、これは妊娠中期・後期におなかが大きくなったときのことおなかの赤ちゃんが大きく育ってくると、それにつれて子宮の大きさ・重みも増し、寝方を工夫しなければ、安眠できなくなります。
これに対して、まだおなかが大きくなっていない妊娠初期は、どんな寝方や姿勢であれ、妊婦さんがもっとも快適に感じるものを選ぶことがポイント。つわりで体調が悪い妊婦さんが多い時期ですので、体をゆっくり休め、快眠できる姿勢を選びましょう。
※参照1 日本産婦人科学会 流産について
※参照2 日本救急医学会 仰臥位低血圧症候群