子宮外妊娠とは受精卵が本来着床すべき子宮内膜ではなく、卵管や頚管などの場所に着床してしまう妊娠を指します。女性の子宮には大きくなっていく胎児を育めるよう、胎児の大きさに合わせて伸びていくという機能が備わっていますが、卵管や子宮頸管にはそのような機能がありません。
その結果、ある時点に到達するとそれ以上胎児が成長することが不可能になり、流産や卵管破裂という形に終わってしまいます。
今のように医学が発達する以前には、子宮外妊娠は妊婦さんの命に関わる重大な症状でしたが、現在では着床後きわめて早い時期に子宮外妊娠が判明するようになり、大事に至るケースは減りつつあります。
子宮外妊娠を乗り越え、次の妊娠に備えるには早期発見・早期治療が肝心です。子宮外妊娠というのは残念なことですが、早期に発見し、適切な治療を受けることにより深刻なダメージを避けることが出来ます。子宮外妊娠について知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介します。
子宮外妊娠とは
子宮外妊娠とは受精卵が子宮内膜以外の場所に着床してしまう妊娠を指します。子宮外妊娠でもっとも多いのが卵管妊娠で、次に卵巣妊娠、頸管妊娠、そして非常に稀なケースとして腹腔妊娠が続きます。
子宮外妊娠の割合は統計により多少差がありますが、そのほとんどは卵管妊娠により占められます。卵巣妊娠、子宮頸管妊娠、腹腔妊娠が残りを占めます。
受精卵は子宮以外の場所では成長を続けることが出来ません。着床した場所にもよりますが、ほとんどの場合妊娠三ヵ月目、遅くても四ヶ月目に至るまでに限界を迎えてしまいます。
子宮外妊娠が起こる原因
子宮外妊娠が起こる原因をいくつか挙げてみましょう。まずは以前に腹部に手術を受けたことがあり、その際に卵管周辺に癒着や炎症を起こしたことのある人。
卵管が狭まっていたり、詰まりを起こしている場合にも卵管妊娠が起こりやすくなります。
クラミジア感染症などの性感染症も卵管炎を引き起こすことがあります。
他にも腹膜炎や過去に複数回の流産や人口妊娠中絶で子宮内の掻爬を受けたことがある方、腹部の手術を受けたことがある方、子宮内膜症にかかったことのある方などを挙げることが出来ます。
初産婦と経産婦
初産婦の方と経産婦の方では経産婦の方のほうが、子宮外妊娠の起こる確率が高いといわれていますので、以前の妊娠で問題なかったからといって、子宮外妊娠が起こらないという保証はありません。
また、前回子宮外妊娠だった方は、次回以降の妊娠でも子宮外妊娠になる可能性が高いといわれています。
子宮外妊娠の兆候と確認
子宮外妊娠の兆候はお腹の痛みや出血になります。症状としては出血やおりものがだらだらと続き、そのままにしておくとやがて痛みが激しくなってきます。
出血は断続的に続くこともあり、生理と間違える方も少なくありません。おりものは薄いピンク色をしていることもあり、生理予定日近くに起こることもあり、総じて生理のような様相を帯びています。
この時点でまだ妊娠していることに気がついていない場合には、子宮外妊娠の発見が遅れ、その後の大出血やショック状態につながりかねません。妊娠を望んでいるにしろ、そうでないにしろ、常に基礎体温を付けるようにしておくと、妊娠の有無を判断する上での助けになります。
妊娠検査薬の使用時期
前回の妊娠から数えて次の生理予定日の日になっても基礎体温が高いまま。もしかして妊娠したのでは?と思ったときに便利なのが市販の妊娠検査薬です。ほとんどの市販の妊娠検査薬は生理予定日の約一週間後から使用可能になりますが、どうしても気になる方はフライング検査をしてしまうようです。
生理予定日近くにおりもののような出血がある。このような場合に可能性として考えられるのは、着床出血、化学流産、早期流産、子宮外妊娠などです。
一刻も早く妊娠しているか知りたくて、市販の妊娠検査薬で検査してみると陽性反応が出た、という場合も、最終的な判断は産婦人科での診察・検査を受けてからということになります。市販の妊娠検査薬だけで妊娠を確定することは出来ません。
生理予定日を過ぎても基礎体温が高いまま、しかし生理のような出血やおりものが断続的に続く場合には、出来るだけ早く産婦人科で診察してもらうようにしましょう。
産婦人科での妊娠検査
妊娠しているかどうかの正確な判定のためには、産婦人科での診察を受けなければなりませんが、病院に行くタイミングをはかるのはなかなか難しいのではないでしょうか。産婦人科で診療を受けるのに最適なタイミングはいつでしょうか。
結論から言うと産婦人科に行くのは出来るだけ早いに越したことはありません。基礎体温を付けている方なら、排卵日が確定出来るかと思われます。他にとくに問題がなければ、生理予定日の一週間後くらいに産婦人科での診察を受けることが勧められますが、これには例外もあります。
たとえば基礎体温が高いにも関わらず、お腹に痛みがある、ピンク色のおりものや少量の出血がある場合などは、たとえ妊娠週が4週目、5週目でも即座に病院に行くようにしましょう。子宮外妊娠などの異常妊娠の疑いが少しでもある場合は、出来るだけ早く診察を受けなければなりません。
陽性でも胎嚢・胎芽が確認できない場合
妊娠反応は陽性でも、産婦人科のエコー検査で胎嚢や胎芽が確認できない場合、子宮外妊娠の可能性が疑われます。産婦人科のエコー検査で胎嚢が確認できるようになるのは、妊娠5週から6週目からです。
その他の兆候はすべて妊娠陽性を示しているにも関わらず、この時点で胎嚢や胎芽が確認されなければ、子宮外妊娠の可能性が高いといえるでしょう。他にも流産の可能性も捨て切れませんので、少しでも不安がある場合には、妊娠7週、8週まで待たずに産婦人科で検査してもらうようにしましょう。
子宮外妊娠を放置しておくと
子宮外妊娠に気付かずにいると重大な結末を招くことになります。たとえば卵管妊娠の場合、妊娠8週から9週目頃まで受精卵が育ってしまうと、その大きさに耐え切れず卵管破裂という事態を招いてしまいます。
卵管破裂は激しい痛みと出血を伴い、卵管を温存することが出来ない場合卵管摘出ということになります。卵管は左右に一つずつありますので、片方を摘出しても次回以降の妊娠の可能性がなくなるわけではありません。
子宮外妊娠の治療
子宮外妊娠はそのままにしておくと、母体に重大な問題を引き起こします。子宮外妊娠と判明したら、そのときの状況に応じて必要な処置を施すことになります。
子宮外妊娠の場合、そのまま妊娠を継続していくことは不可能ですので、手術を行うことになります。手術の方法には二通りあり、一つは腹腔鏡手術、もう一つは開腹手術になります。
開腹手術に比べると、腹腔鏡手術のほうが体にかかる負担は少なくなりますが、卵管破裂を起こしている場合など、医師の判断で開腹手術が行われることもあります。
開腹手術が行われるのは、緊急的に手術が必要な場合、子宮外妊娠に気がつかず、大出血でショック状態になって病院に搬送された場合など。一刻の猶予も許されない場合は、開腹手術しか方法がありません。
子宮外妊娠の待機療法とは?
待機療法とは手術や薬の投与ではなく、経過を観察することにより、胎嚢や胎芽が自然に吸収されてしまうのを待つことを指します。
いったん妊娠したものの受精卵が発達していない場合、妊娠に伴い増えるホルモンhCGの数値は徐々に下がってきます。産婦人科での検査において、このhCG値が下がっていることが判明したときに取られるのが、この待機療法です。
子宮外妊娠の薬物療法とは?
薬物療法とは手術を行うことなく、抗がん剤を用いることにより妊娠の継続を終了させる療法を指します。手術を行わずに処置が出来るため、卵管を切除する必要がなく、次回以降の妊娠の可能性を低下させません。
用いられる薬はメソトレキソート(MTX)という抗がん剤、これを用いることにより、胎嚢を小さくし流れやすくするというのが治療の骨子です。
腹腔鏡手術とは?
腹腔鏡手術の利点は傷あとが目立たず、体への負担が少ないこと。お腹に小さな穴を開け、そこに内視鏡を入れ、腹腔の様子を注意深く観察しながら手術を進めていきます。開腹手術に比べると、術後の回復が早く、開腹手術よりも早く仕事や家庭に戻ることが出来ます。
腹腔鏡手術は子宮外妊娠以外にも、子宮筋腫や子宮内膜症、卵管閉塞、卵管癒着などに適用されています。メリットの多い腹腔鏡手術ですが、出血がひどい場合や腹部の広い箇所に癒着が見られる場合、腸管や膀胱など周辺臓器に対する処置も同時に必要な場合、母体がショック状態で一刻も猶予できない場合には開腹手術が行われます。
卵管妊娠の種類について
子宮外妊娠の中でもっとも多い卵管妊娠。卵管妊娠は卵管のどの部分に受精卵が着床するかにより、さらにいくつかの種類に分かれています。
卵管妊娠の中で大半を占めるのが卵管膨大部妊娠、卵管の中でもっとも広い部分に着床した妊娠を指します。他に卵管の中でも狭い場所である卵管峡部や、卵管間質部、卵管采部に着床する場合もあります。
卵管流産とは?
卵管妊娠のうち卵管膨大部妊娠に多く見られる流産で、受精卵が自然に剥離してしまい、自然に流産してしまう症状を指します。受精卵が付着している部分から出血が起こりますが、胎嚢や胎芽は腹腔に流れてしまい、出血はやがて収まります。
胎嚢や胎芽が自然に吸収されたあとも、産婦人科で子宮の状態や妊娠反応などに関して検査を受ける必要があります。
卵管妊娠の手術について
卵管妊娠の手術は主に二通り、卵管を切除する手術と卵管を開き受精卵だけを取り出す卵管温存手術です。
他に薬を投与することにより切開を行わずに取り出す方法もありますが、これは必ずしもすべての妊婦さんに適用できるとは限りませんので、通常の場合は切開手術か、温存手術かという選択になります。
卵管切除と温存法
卵管を切除することのデメリットは片方の卵管が無くなることにより、自然に妊娠する可能性が減少してしまうことです。
メリットとしては次回以降の卵管妊娠の可能性を無くすことが出来ること、妊娠の状態を確実に終了させることが出来ることですが、次回以降の妊娠において、残ったほうの卵管に着床しないという保証はありません。
温存手術の場合は両方の卵管を残すことが出来ますが、手術後も妊娠反応が消失せずに、さらに薬の投与や再手術を行わなければならないこともあります。
どちらの方法で卵管妊娠の手術が行われるかは、妊娠の状況や母体の状況から総合的に判断されます。
卵管切除手術後の過ごし方
卵管切除手術を受けたあと2週間程度は安静にして過ごす必要があります。
腹腔鏡手術だったか、開腹手術だったかにより、手術後の体力回復には違いが出てきますが、いずれにしても仕事や家事を行う際は決して無理をしないよう注意しましょう。次回の妊娠のタイミングは医師に相談し決定するようにします。
費用は手術内容で異なる
子宮外妊娠の手術を行う場合は一体どれくらいかかるのか、気になってしまいますね。妊娠中・出産中は基本的に全て実費で支払わなければなりませんが、手術を行う場合は保険対象となります。
子宮外妊娠の手術にかかる費用は大体10~30万以上で、金額にかなりの開きがありますが、これは手術内容の違い、病院の近いなどです。開腹手術よりも腹腔鏡手術の方が費用はかかりますが、入院日数は少なくすむメリットがあります。
子宮外妊娠手術は高額療養費制度が適用されるため、収入によっては支払いがかなり安くなります。また、入院・手術保障が充実している民間保険に加入しているのならば給付金が受け取れますので、費用の面であまり心配する必要はないでしょう。
子宮外妊娠を繰り返すのはなぜ?
一度子宮外妊娠になった方は、2度3度繰り返す傾向にあると言われています。その原因はいくつかあり、卵管を温存するための手術跡が癒着しやすくなることや、クラミジアなどの感染症が完全に体から排除されていないことが挙げられます。
妊娠を望む方は、前回子宮外妊娠になった原因がしっかり改善されているかどうかを確認する必要があるでしょう。また遺伝によるものも原因と考えられ、自分の母親が子宮外妊娠した事がある方は同様になりやすいとも指摘されています。
このように様々な原因が提示されても原因不明な部分も多いため、全てが予防できる方法などはないのが子宮外妊娠なのです。
次の妊娠に向けた努力
クラミジア感染症や子宮内膜症などは、子宮外妊娠を引き起こす原因の一つです。子宮外妊娠の再発を防ぐためには、これら感染症の治療を続けていくことが必要です。
また妊娠の可能性を確認するには、卵管造影検査を受け、卵管の疎通性をチェックしなければなりません。卵管造影検査とは子宮口から造影剤を入れ、それが卵管の奥のほうまで到達するかどうかをチェックする検査です。これにより卵管閉塞が起きていないか確かめることが出来ます。
精神面のアフターケア
流産同様、子宮外妊娠は妊婦さんの心に大きな傷を残してしまいます。子宮外妊娠後は体のケアだけでなく、精神面のケアも怠らないようにしましょう。
自分を責めているばかりでは辛い思いを払拭することは出来ません。次の妊娠に備えて、極力前向きな考え方が出来るように、十分に自分を労わるようにしましょう。
まとめ
子宮外妊娠に関して知っておきたいポイントなどの情報をご紹介しました。赤ちゃんを待ち望んでいる方にとっては、非常に辛い思いをする子宮外妊娠ですが、早めに産婦人科で検査を受けることにより、早期発見・早期治療が可能になります。
とくに以前にも子宮外妊娠を経験したことがある方や不妊治療中の方は、生理予定日付近から注意深く体の調子を観察し、少しでも異変を感じたらすぐに精密検査を受けるようにしてください。