妊娠中は食べ物の嗜好に変化があらわれます。妊娠前には大嫌いだった食べ物が大好きになったり、これまで普通に食べられていたものがまったく口に合わなくなったりと、食べ物や飲み物の嗜好は妊娠前と妊娠中では劇的に変化することがあります。
食べ物の嗜好とは別にもうひとつ生じるのが味覚障害。食べ物の味がよく分からない、甘いものを苦く感じる、食べ物の味がしない、食べていないのに口の中に変な味がするなど、妊娠中は味覚障害の症状があらわれます。
妊娠中は母体とおなかの赤ちゃんの安全のため、摂取する栄養分やカロリーに十分注意しなければなりません。味覚障害をそのままにしておくと、十分な栄養が取れずに臨月まで体力を温存することが難しくなります。妊娠中の味覚障害についての知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介していきますので、参考にしていただければと思います。
妊娠初期の味覚の変化について
妊娠を機に味覚に変化が起こったという話はよく聞かれます。妊娠中の味覚の変化というと、つわりによるものを真っ先に思い浮かべます。
つわりになると酸っぱいものや冷たいものが食べたくなりますが、味覚の変化は百人百様。酸っぱいものだけでなく、濃厚な味付けのものや塩辛い物が食べたくなる方もいれば、とにかく甘いものが食べたい衝動を抑え切れない方もいます。
程度に差こそあれ、大多数の方は妊娠を機になんらかの形で食べ物の嗜好に変化を感じるといわれています。
酸っぱいもの、塩辛いもの、甘いもの
妊娠初期の妊婦さんはどんな味を好むようになるのでしょうか?つわりのときに食べたくなるものは、ひとりひとりの妊婦さんによって異なります。
一般的にいうと、酸っぱいもの、塩辛いもの、そして甘いものを食べたくなる方が多い傾向が顕著です。ただし塩辛いものや甘いものに関しては、食べたいと思う妊婦がいる一方で、妊娠したとたんに食べられなくなった、という妊婦さんもいるようです。
口の中に苦味を感じる
何も食べていないにも関わらず、口の中に苦味やえぐみを感じることもあります。口の中がまずいという表現をされる妊婦さんも大勢います。
口の中に常に苦味を感じるため、水を飲んでも苦味を感じてしまい、水も飲みたくないという状態に。何を食べても苦く感じる、まずく感じる、味覚障害の症状のひとつです。
口の中がからからに乾く
妊娠すると唾液の分泌量が減ります。唾液量が少ないため、口の中がねばねばと乾燥してしまい、食べ物をうまく飲み込めなくなります。
妊娠が味覚にもたらす影響について
妊娠初期のつわりは程度や種類に差こそあれ、大多数の妊婦さんが経験するもの。湯気の立つ食べ物を目にしただけでムカムカする、白米のにおいが気持ち悪い、普段食べていたものがまったく食べられない、ファーストフードや濃い味付けのものが食べたくなる。
このように妊娠を機に起こる味覚の変化は、妊娠初期のつわりと関連があるように思われます。
つわりの代表的な症状は、食欲・味覚の変化に加えて、においに敏感になること。食べ物のにおいを嗅いだだけで気持ちが悪くなり、口にすることができない、ほかほかと湯気の立った食べ物のにおいが我慢できないなど、妊娠初期の味覚の変化や障害はつわりに原因があるといえそうです。
妊娠初期のつわりの原因とは?
つわりの原因に関してははっきりと解明されたわけではありませんが、妊娠を機にホルモン分泌に変化が起こることや自律神経のバランスに乱れが生じることにあるのでは?と考えられています。
妊娠を機に分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)や女性ホルモンのバランスの変化、自律神経の乱れ、ストレスなど、さまざまな要因が相互に作用し合い、つわりの症状となってあらわれると考えられます。
妊娠超初期の味覚の変化は妊娠の兆候?
受精・着床が成立する時期は妊娠超初期と呼ばれています。次の生理予定日前後に味覚に変化を感じたら、それは妊娠の兆候かもしれません。
女性ホルモンやその他のホルモンに対する感受性の強い方や体のちょっとした変化に敏感な方は、妊娠超初期から体になにかしらの変化を感じるようです。味覚や嗜好の変化もその中のひとつ。
妊娠の成立を待ちわびている方は自分の体の変化に常に注意を払っているため、妊娠超初期の段階からなにかしらの変化を感じるのではないでしょうか。
妊娠中の味覚変化 味覚障害について
妊娠を機に味覚や嗜好に変化があらわれることについては上に挙げたとおりですが、単なる味覚の変化だけでなく、味覚障害の症状があらわれることもあります。
味覚の変化は単にある特定の味が嫌いになる、好きになる状態を指しますが、味覚障害とはそもそも食べ物の味が分からなくなる状態を指します。味が分からなくなるとは具体的にどのような状態を指すのでしょうか?
味覚障害とは?
味が分からなくなるとは、味覚の感度が下がることで、甘味、塩辛味、酸味、旨味、苦味の味覚を感じる感度が低下します。
ひどい状態になると味がまったく分からなくなることも。味を感じなくなることとは反対に、何も食べていないにも関わらず、口の中に苦みや塩っぽさを感じることもあります。何を食べても味が感じられず、食べ物がまずく感じられることも味覚障害のうちに数えられます。
味覚障害の種類について
味覚障害にはいくつかのタイプがあります。以下に主なものをまとめてみましょう。
味覚減退・味覚消失
味覚の感度が低下したり、まったく感じなくなること。
異味症
食べているものと違う味を感じること。甘いものを苦く感じるなど。
自発性異常味覚
何も口にしていないにも関わらず、口の中に苦味、えぐみ、渋みといった味を感じること。
解離性味覚障害
特定の味、とくに甘味が分からなくなること。甘味が分からなくなるケースが多いが、それ以外の味覚が分からなくなることもある。
悪味症
どんな食べ物を口にしても不味く感じられること。
味覚変化 味覚障害の原因とは?
このように味覚障害にはいろいろな種類があり、原因もひとつではありません。味覚障害の症状は妊娠初期のつわりの症状に似ています。
妊娠初期の味覚障害はつわりの症状のあらわれと考えることもできますが、妊娠中期・後期・臨月になっても味覚障害が続く場合もあります。
つわりであれば、通常、安定期に入ると味覚の変化や異常も落ち着いてきますが、なんらかの疾病あるいは亜鉛不足などの原因により、妊婦さんに味覚障害が生じている可能性もあります。今度は味覚障害の一般的な原因について見ていきましょう。
亜鉛不足による味覚障害
亜鉛が不足すると味覚障害が生じるおそれがあります。そもそも私たちが味を感じるのは、食べ物が舌や軟口蓋にある味蕾に入り、その中にある味細胞が味覚をキャッチするため。キャッチされた味覚は味覚神経をとおして大脳の味覚中枢に送られます。
味蕾にある味細胞は、味覚を感知する上できわめて重要なはたらきを担っています。亜鉛が欠乏すると、この味細胞の新陳代謝が十分に行わなくなり、味覚障害が生じる可能性がありす。
妊娠中の亜鉛不足
妊娠初期のつわりがひどく、食事が満足に喉を通らない。こんな妊婦さんは決して少なくありません。何を食べても吐き気がする、食べ物のにおいを嗅いだだけで気持ち悪い。
こんな状態の中で、やむなく食べられるものだけを食べている妊婦さんもいるかと思われますが、長期にわたって栄養に偏りのある生活を続けていると、亜鉛や鉄といった妊婦さんに絶対必要な栄養素の不足を招いてしまいます。
亜鉛不足を解消する
妊婦の亜鉛摂取量の目安は一日10mgから11mg程度※1参考。日本人が食事から摂取する亜鉛の量は必要量を満たしていないという調査もありますので、妊娠中は積極的に亜鉛を多く含む食品を取り入れるようにしましょう。サプリで補充する際には摂取量に注意。摂取上限量を超えての過剰摂取は望ましくありません。亜鉛不足が気になる方はまずは病院で産婦人科医に相談し、その指示に従うようにしましょう。
貧血による味覚障害
貧血も味覚障害の原因のひとつ。貧血にかかっていると、皮膚のくすみ、肌あれ、動悸、息切れ、爪の異常、味覚障害、めまいなど、さまざまな症状があらわれます。
妊娠中の貧血について
妊娠中や授乳中は貧血になりやすい状態です。妊娠中はおなかの赤ちゃんに優先的に栄養が運ばれます。鉄や亜鉛といった栄養素はまずおなかの赤ちゃんの必要を満たすために使われ、そのあと母体に回されます。妊婦さんの鉄分や亜鉛の摂取量が十分である場合には問題ありませんが、摂取量が不足していると、妊婦さん自身が鉄欠乏性貧血や亜鉛欠乏性貧血になってしまいます。
妊娠中はタンパク質や炭水化物といった栄養素だけでなく、亜鉛や鉄、葉酸といった栄養素も積極的に摂取しなければなりません。
口腔内の症状による味覚障害
唾液量が少なくなるドライマウスや舌に起こる炎症である舌炎にかかっても、味覚障害が起こるおそれがあります。ドライマウスとは唾液が不足することにより、口の中から乾く症状。ドライマウスになると、舌の味細胞が乾燥によりダメージを受け、その結果味覚障害になる可能性があります。
舌炎の主な原因はビタミンB2不足や舌のやけどなど。体調不良やストレス、睡眠不足、栄養不足などによっても起こります。妊娠初期にはつわりによる栄養の偏りや体調不良、妊娠中期や後期には体型の変化からくるストレスや疲れなどにより、口内炎や舌炎にかかりやすい環境にあります。
妊娠中のドライマウス
ドライマウスの原因はさまざま。糖尿病などの疾病が隠れている可能性もあります。飲酒や喫煙、ストレス、虫歯や歯周病などもドライマウスの原因のひとつですが、いずれにしても口内に唾液が少ないことがきっかけになります。
妊娠中は女性ホルモンの分泌の影響を受け、唾液の分泌が減ります。妊娠中期・後期・臨月には、それまでひどかったつわりが一段落したことや、大きくなった子宮に圧迫されるため、一回の食事で食べられる量が少なくなることから、食事の回数が増える傾向にあります。
食事の回数が増え、その上唾液の分泌が少ないということで、妊娠中は虫歯や口内炎、ドライマウスといった口内や歯のトラブルに見舞われやすくなっています。
妊娠中はオーラルケアを適切に行う
女性ホルモンのはたらきにより唾液の量は減っていますので、口内の自浄力も低下しています。このためドライマウスだけでなく、虫歯や歯周病にもかかりやすくなっています。妊娠中はオーラルケアを妊娠前よりもさらに念入りに行うことが必要です。
糖尿病による味覚障害
糖尿病により腎臓の機能が低下していると、亜鉛が尿の中に出てしまう量が増え、結果として亜鉛不足に陥ってしまいます。
妊娠中は血糖値が上がりやすく、妊娠糖尿病にかかる方も少なくありません。妊娠糖尿病にかかると高血圧になるリスクがあるだけでなく、合併症として神経障害なども生じます。
薬剤による味覚障害
薬の中には味覚障害をもたらす成分を含むものがあります。どんな薬に味覚障害のリスクがあるかいうと、亜鉛の吸収を阻害するはたらきや、唾液の分泌を抑制するはたらきを持つもの。抗アレルギー剤、鎮痛剤、抗生物質、降圧剤、高脂血症剤など、味覚障害をもたらす可能性のある薬はたくさんあります。
これらの薬を服用したからといって必ず味覚障害が出るわけではありませんが、妊娠中は自己判断で市販薬を飲むことがないよう注意しましょう。産婦人科病院以外で診察を受ける際には、医師に妊娠している旨を必ず伝えることが求められます。
妊娠中の味覚障害の対処法について
妊娠中の味覚の変化・障害ですが、味覚の変化は妊娠初期のつわりに伴う症状で、これは安定期に入るころには徐々におさまってきます。単なる味覚・嗜好の変化ではなく、亜鉛不足やその他の理由により味覚障害が生じている場合には、妊娠中期・後期・臨月まで引きずることが多いようです。
味覚障害に関しては完全な予防が難しく、これさえしておけば味覚障害にならないという方策はありません。
治療法にしても、何が原因で味覚障害が生じているかを特定することが必要です。そのためもまずは医師の診断を仰ぎましよう。さまざまな検査を行わなければならないため、いったん生じてしまうと完治までにかなり時間がかかってしまうケースが多いです。
妊娠初期のつわりは避けようがありませんが、妊婦さんが自分でできることは怠らずにきちんと行うようにしましょう。たとえば、亜鉛や鉄不足にならないよう食生活を正すことやストレスや疲労を溜めないこと、口内を清潔に保つようにし、虫歯や歯周病予防に徹することなど、毎日の生活の中で出来ることをひとつずつこまめに行うようにしましょう。
【噂】味覚の変化で赤ちゃんの性別がわかる?
赤ちゃんの性別は、誰でも早く知りたいと思うもの。そのため赤ちゃんの性別に関する言い伝えは昔から数多くありますが、その一つに妊娠中油こい食事を好むようになったら赤ちゃんは男の子、甘いものを好むようになったら赤ちゃんは女の子、というものがあります。
なんとなくイメージとしては分かりますが、他の言い伝え同様、味覚変化と赤ちゃんの性別は全く関係がありません。これらの言い伝えは生まれるまで性別が分からなかった昔の話であり、妊娠中期に入ればエコーで性別が分かる現在とは事情が異なります。おじいちゃん・おばあちゃんの世代では未だ言ってくる方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう話が昔はあった程度に考え、気にしないことが一番です。
まとめ
妊娠中の味覚変化・味覚障害について知っておきたい情報をご紹介しました。妊娠中の味覚障害はつわりの症状によるものもあれば、亜鉛や鉄不足から生じているものもあります。
何を食べてもまずいというのは妊婦さんにとって非常に辛いもの。症状があまりにもひどく、食欲不振・減退になったのを放置しておくと、水分不足や栄養不足に陥ってしまいます。安定期に入ってもなお症状が続く場合には、妊婦健診の際に医師に相談するようにしましょう。
※参考1 厚生労働省