妊娠中期は安定期とも呼ばれ、妊娠初期のつわりの症状もおさまり、体調も徐々に良くなってくる時期。つわりで食欲のなかった方も、妊娠中期に入ると再びいろいろなものが食べられるようになります。
全体的に体調が良くなる妊娠安定期。この時期には流産の可能性も少なくなり、精神的な負担も軽くなってきます。このように妊娠中期は体調も妊娠の状態も比較的安定していますが、妊婦の中には妊娠中期に腹痛を感じる方もいます。
妊娠中期の腹痛にはすぐに診察を受け、安静にしなければならないものもあれば、とくに心配のないものもあります。妊娠中期の腹痛について、その症状や原因から注意点・対処法など、知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介します。
妊娠中期とは?
妊娠中期の腹痛について考える前に、まずは妊娠中期に関する基礎知識をしっかり学んでおきましょう。妊娠中期とは妊娠16週から27週目、妊娠5ヶ月から7ヵ月目の期間を指します。
この時期はママとおなかの赤ちゃんをつなぐ胎盤もしっかり完成することから、安定期とも呼ばれます。安定期に入ると流産のリスクも著しく減少しますので、妊婦にとっては比較的過ごしやすい時期といえるでしょう。
妊娠中期の特徴とは?
妊娠中期になるとほとんどの妊婦はつわりが一段落します。これにより食欲が増し、一気に体重が増加することもありますので、体重管理をさらに厳重にしていく必要があります。
おなかの膨らみも目立ちはじめ、胸が張り、下半身がむくみやすくなります。また胎動も感じられるようになり、おなかの赤ちゃんの性別も分かるようになります。
おなかの赤ちゃんの成長につれて、子宮もどんどん大きくなることから、膀胱や大腸が圧迫され、トイレが近くなったり、便秘や下痢といったマイナートラブルもあらわれます。
安定期とは?
妊娠中期は安定期とも呼ばれます。妊娠初期には「安定期に入るまではとにかく安静に」といわれますが、これは流産のほとんどが妊娠初期に起こるため。流産の大半は妊娠12週目までに起こる初期流産で、それ以降の流産の確率はぐっと減ります。
ただし妊娠12週目以降に流産がまったく起こらないわけではありませんので、安定期に入ったからといって油断せず、医師の指示に従わい、体に負担のかかることは極力控えましょう。
安定期とはそもそも医学用語ではなく、一般的に用いられている言葉です。この頃になるとほとんどの妊婦はつわりがおさまり、体調が安定することから、また胎盤が完成し、流産のリスクが減ることから安定期という言葉が使われていると考えられます。
つわりがおさまりそれまで食欲がなかった方も、安定期に入ると食欲が出てたくさん食べられるようになります。安産を目指すには、体重管理が大切。安定期に暴飲暴食をしていると体重が増えすぎてしまいま。体調管理に加えて、体重の増加を一定の範囲内におさめる努力が必要です。
妊娠中期の腹痛の症状について
妊娠中期に起こる腹痛にはあまり心配のないものと、即刻病院で診察を受けたほうがいいものの二通りがあります。まずはあまり心配の要らないタイプの腹痛の特徴とその原因からみていきましょう。
便秘による腹痛
妊娠中期に入ると子宮はさらに大きくなり、赤ちゃんの重みもあって、周囲にある臓器を圧迫します。胃腸、膀胱など子宮の周りにある臓器は、大きくなった子宮に圧迫され、さまざまなトラブルが生じます。
胃腸、膀胱が圧迫されることに起こる主な症状は、胸焼けや胃痛、頻尿、尿漏れ、便秘など。このうち便秘は妊婦の多くが経験するマイナートラブルのひとつ。妊娠に伴うホルモンバランスの崩れ、ストレス、運動不足、そして大きくなった子宮に圧迫されることなど、妊娠中は便秘になりやすい環境に置かれています。
また便秘が続くとその後下痢になることもありますので要注意。妊娠中期に便秘と下痢を繰り返す妊婦は多く、毎日の食事内容に十分に配慮する必要があります。便秘と下痢の繰り返しにより、おなかの張りが生じるのは望ましくありません。
便秘の解消法とは?
妊娠中期に便秘や下痢の症状が繰り返し起こる場合には、かかりつけの産婦人科医に相談し、必要であれば薬を処方してもらうようにしましょう。市販の便秘薬を自己判断で服用するのは避け、産婦人科医から処方された薬や指示に従うようにしましょう。
また薬だけに頼らずに、食事の内容を見直し、整腸作用のある食べ物をたくさん毎日のメニューに取り入れるようにしましょう。栄養に偏りのある食習慣を続けるのは便秘になるだけでなく、カロリーオーバーになる可能性もあります。栄養素を満遍なく摂取するよう工夫してみましょう。
水分補給を忘れずに
食事の内容だけでなく、水分補給をたっぷり行うことも大切です。水分不足は便秘の原因のひとつ。体内に水分が不足してしまうと便が固くなり、便通が起こりにくくなります。
食事内容に配慮するとともに水分の補給もたっぷり行い、妊娠中期の便秘解消に努めましょう。
円靭帯痛による痛み
妊娠中期にはおなかの赤ちゃんの成長がめざましく、子宮の大きさもどんどん大きくなっていきます。子宮を支える靭帯は円靭帯と呼ばれています。円靭帯は左右にひとつずつ、卵管のある場所から恥骨に向かってのび、骨盤の中に子宮を固定する役割を果たしています。
妊娠前の円靭帯の大きさは小指の先ほどですが、妊娠中期には子宮が急激に大きくなることにより、円靭帯もぐっと引き伸ばされ、これにより腹痛や恥骨や足の付け根の痛みといった症状があらわれます。
円靭帯痛は妊娠中期によくある症状のひとつ。腹痛に加えて、足の付け根や子宮の前部分に引っ張られるような痛みを感じる場合には円靭帯痛の可能性が高いといえるでしょう。ただし痛みや突っ張りといった症状だけをもとに、円靭帯痛かどうか自己判断することは控えたほうが無難。痛みが続く場合は産婦人科で必ず診断を受けるようにしましょう。
円靭帯痛の治療
円靭帯痛は妊娠の状態に伴う生理的な症状で、子宮が急激に大きくなる妊娠中期に顕著にみられる症状です。円靭帯痛と診断されたらまずは医師の指示に従うことが必要です。
普段の生活で注意すべきことは、体の向きを変える際にはゆっくり行うことや、おなかに負担のかかる姿勢を取らないことなど。安定期だからといって油断せずに、体に負担のかかることはできるだけ避けるようにしましょう。
逆流性食道炎・胃炎による胃痛・腹痛
大きくなった子宮が圧迫するのは大腸だけではありません。妊娠中期は子宮が胃を圧迫することにより、逆流性食道炎や胃炎になりやすい状態です。
胃が圧迫されることにより、炎症が起きたり、胃酸や胃の中身が食道に逆流することがあり、これが原因で胃痛や腹痛が起きます。
食べ方を考える 食べすぎは控える
逆流性食道炎や胃炎を防止するためには、少量ずつゆっくり食べることがポイント。空腹だからといって満腹になるまで食事を続けると、胃の中身が逆流してしまいます。食事をする際には少量ずつ、まだ食べられるところで止めるようにしましょう。
注意すべき妊娠中期の腹痛とは?
上に挙げたように妊娠中期の腹痛にはあまり心配のいらないものもありますが、反対に即刻病院で診察と検査を受けたほうがいい腹痛もあります。今度は注意すべき腹痛の特徴や種類について詳しく挙げてみましょう。
おなかの張りが持続する場合
腹痛の箇所がおなか全体に広がり、おなか全体に張りを感じる場合やおなかががちがちに固くなってきた場合は、できるだけ早く産婦人科に連絡したほうが安心です。おなかの張りは理由がなんであれ望ましくありません。
腹痛とともにおなかに張りが出て、安静にしても30分以上続く場合には、産婦人科に連絡して指示を仰ぐようにしましょう。特に問題がない場合でも、妊娠中期にはちょっとしたことでおなかに張りを感じやすくなります。体の動かしすぎやおなかの冷えなどにより張りを感じた場合には、すぐさま安静にしましょう。
痛みの間隔が規則的で、痛みがどんどん激しくなる
痛みの間隔が規則的で、痛みが徐々に強くなってくる場合には即刻病院に連絡しましょう。痛みが規則的で時間の経過とともに痛みが強まるのは、流産・早産の兆候のひとつ。腹痛を感じて安静にしても痛みが治まらず、痛みの間隔も短くなってくる場合には、病院に連絡し指示を仰ぎましょう。
出血を伴う痛み
出血を伴う腹痛にも注意しましょう。妊娠中の不正出血にはいろいろな原因がありますが、その中でももっとも心配なのが流産や早産の兆候。妊娠中期に出血を伴う腹痛が起こった場合には、自分で判断せず産婦人科医に連絡し、その指示に従うことが大切です。
胎動が弱くなる場合
妊娠中期になると胎動を感じるようになります。胎動の強さや間隔には個人差があり、胎動の強さ・弱さだけをもとにおなかの赤ちゃんの状態を判断することはできませんが、それまで感じていた胎動を感じなくなった場合、あるいは胎動が著しく弱くなった場合には、病院に連絡するようにしましょう。
胎動はおなかの赤ちゃんとママをつなぐ唯一のコミュニケーション手段。胎動の変化は、赤ちゃんや妊娠の状態を判断する大切な材料です。いざというときにために普段から胎動をカウントし、異常を感じたときにすぐに病院に連絡できるようにしておきましょう。
腹痛とともにおなかの張りや胎動に変化があった場合、とりあえず安静にし、おさまらない場合はすぐに病院に連絡しましょう。
妊娠中期の注意すべき腹痛の原因
妊娠中期の注意すべき腹痛の原因として考えられるものをいくつか挙げてみましょう。心配のない腹痛か、注意すべき腹痛か、自分自身では判断できない場合にはかかりつけの病院に尋ねて確認したほうが安心です。
子宮頸管無力症
子宮頸管無力症とは、本来であれば出産前に開くことのない子宮口が開いてしまう状態を指します。子宮頸管無力症は妊娠中期に起こることが多く、子宮頸管がもともと短い方や以前の妊娠で子宮頸管無力症になった方などにリスクがあります。
子宮頸管無力症かどうかの診断は、通常妊娠16週以降の検査や診察によって行われ、子宮頸管無力症と診断された場合、子宮頸管をしばる手術を行うことがあります。※参考1
細菌感染症
絨毛膜羊膜炎は絨毛膜や羊膜の部分に膣の常在菌による炎症が起こる病気で、適切な治療を行わなければ流産や早産に至るリスクがあります。絨毛膜羊膜炎にかかると子宮の収縮が起こったり、子宮頸管が熟してやわらかくなります。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離とは、子宮に胎児がいるにもかかわらず、胎盤が子宮壁から剥がれ落ちてくる状態を指します。常位胎盤早期剥離は妊娠中期以降起こる可能性のある症状で、とくに妊娠後期に多くなります。
常位胎盤早期剥離の症状は出血、おなかの張り、下腹部痛などで、そのまま放置すると母体と胎児の両方に危険が及ぶおそれがあります。普段とは異なるおなかの張りや不正出血があった場合には、迷わず病院に連絡するようにしましょう。
妊娠中期の腹痛の対処法
妊娠中期の腹痛には心配のいらないものと注意すべきものがあります。注意すべき腹痛が起こった場合にはまず安静に、痛みの起こった場所や範囲、痛みの度合いや継続時間などをきちんと把握します。この際痛みのほかに出血や張りなどの症状が出ていないかどうか確認することも大切です。
安静にしても痛みがおさまらない場合、痛みの度合いがひどくなる場合、おなかが固くなってきた場合には即刻病院に連絡し、主治医の指示を仰ぎましょう。腹痛の症状だけで原因を特定することはできません。あとで後悔しないためにも自己判断はせず、専門医に相談することが大切です。
まとめ
妊娠中期(安定期)に腹痛を感じるときに知っておきたい、いろいろな情報をご紹介しました。つわりも一段落し、体調も徐々に安定してくる安定期。妊娠中を通じて妊婦にとっては比較的過ごしやすい時期といえるでしょう。ただし妊娠につきもののマイナートラブルがまったく生じないわけではありません。
妊娠中期にはおなかの赤ちゃんは体重も身長も大きく成長します。これにつれて子宮の大きさも増大し、胃腸や膀胱を圧迫。これにより便秘や胃痛といったマイナートラブルが生じ、腹痛を感じることもあります。便秘による腹痛であれば心配いりませんが、痛みが激しく規則的な腹痛は流産の兆候。心配のいらない腹痛と注意すべき腹痛の特徴があります。
※参考1 日本産婦人科医会 早産・切迫早産