妊娠すると、女性の身体は急速に変化していきます。初めての妊娠を経験している方の場合、その変化のスピードに戸惑ったり不安を感じたりすることもあるかもしれません。
妊娠中に身体に起こる変化はたくさんありますが、その中でも多くの妊婦を苦しめるのが坐骨神経痛です。独特のビビッとした鋭い痛みに、思わず唸り声をあげてしまう方もいらっしゃるでしょう。
妊婦の坐骨神経痛は、誰にでも起こるわけではありませんが、一度発生すると厄介な部分もあります。そこで、妊婦が坐骨神経痛になるメカニズムや、予防方法、対処方法など、幅広くご紹介していきましす。
坐骨神経痛とは? どんな症状?
坐骨神経痛とよく耳にしますが、具体的にどのような症状のことなのかわからないという方もいらっしゃるでしょう。坐骨神経痛は、腰から太ももの裏を経由し足裏にかけて伸びている「坐骨神経」と呼ばれる太い神経が、何らかの原因により傷みが生じたり、しびれたりする状態のことを言います。
腰から太ももの裏あたりにしびれが生じる場合もあれば、腰から足先まで全体がビビッと傷むこともあり、症状が現れる範囲には個人差があります。
症状が悪化すると、痛みにより歩行が困難になったり同じ姿勢を続けられなくなったり、場合によっては麻痺状態になることもあります。
中高年に多くみられる症状だと思っている方もいらっしゃいますが、年齢に関係なく発症しており、妊婦にも数多くみられます。
坐骨神経痛の原因、メカニズム
坐骨神経痛は、年齢にかかわらずさまざまな人が体験するものではありますが、なぜ妊婦に坐骨神経痛が多いのでしょうか。それは、妊娠により坐骨神経痛が引き起こされやすくなっているからです。そこで、坐骨神経痛のメカニズムについてご説明していきましょう。
一般的な坐骨神経の症状、メカニズム
坐骨神経痛が起きてしまうのは、神経が何らかの原因により圧迫されているからです。通常、年齢が若い場合の坐骨神経痛は、腰椎椎間板ヘルニアにより坐骨神経が圧迫されたことで症状が現れることがほとんどです。高齢の場合は、腰部脊柱管狭窄により坐骨神経が圧迫されたことで症状が現れることが多いでしょう。
妊婦特有のメカニズム
坐骨神経痛は通常、腰椎間板ヘルニアか、腰部脊柱管狭窄により引き起こされることがほとんどです。しかし、妊婦の場合特有の原因により坐骨神経痛が引き起こされています。
妊娠すると、骨盤が広がって不安定になったり、赤ちゃんが成長することでお腹の重みが増えたり、姿勢が悪くなったり、血液量や脂肪が増えたりしますが、これにより坐骨神経痛が引き起こされていると考えられています。
妊婦の坐骨神経痛の原因、症状
妊娠すると骨盤は広がる
妊娠すると、赤ちゃんを育てていくために骨盤の靭帯が緩み広がっていくようになります。これは、リラキシンというホルモンが分泌されたことにより引き起こされます。
リラキシンは、妊娠中継続して分泌されますが、特に妊娠初期は骨盤が大きく動き始める負荷も大きいため、骨盤の位置が変わり坐骨神経痛が引き起こされやすくなってしまいます。
また、赤ちゃんが急成長する妊娠中期~後期にかけても、骨盤がどんどん開いてくるため坐骨神経痛が起きやすくなります。
お腹の重みによる影響
妊娠すると、お腹の赤ちゃんが成長するにつれて羊水も増えていきます。そのため、子宮はどんどん広がって重くなっていきます。
子宮は骨盤底筋と呼ばれる骨盤の底辺についている筋肉によって支えられていますが、骨盤が開き子宮が重くなっていくことで負荷が大きくなっていきます。すると、骨盤のバランスが崩れやすくなり、坐骨神経が圧迫され痛みが生じやすくなってくるのです。
姿勢の影響
妊娠して赤ちゃんがどんどん大きくなってくると、お腹が前に突き出すように出てきます。すると、身体のバランスをとろうと腰を反る癖がつくようになってくるでしょう。
腰には坐骨神経痛があるため、反り腰が頻繁に行われることにより、坐骨神経痛が刺激される回数が多くなっていきます。やがて、刺激が痛みに変わり、坐骨神経痛が引き起こされてしまうのです。
お腹が重くなってくると、反り腰は悪化してしまうため、妊娠中期から坐骨神経痛が出始めると、妊娠後期まで続きやすくなるので姿勢には注意が必要です。
血液量や脂肪が増える影響
妊娠すると、赤ちゃんに栄養を送るために血液量が増えていきます。また、お腹を守って保温するために身体に脂肪が付きやすくなるでしょう。妊娠中は食欲をコントロールすることが難しくなるため、どうしても食べすぎで体重オーバーしてしまうことがあります。
妊娠中に増加する体重は、約10kgの範囲内ですが、早い段階で体重オーバーになるケースも多く、脂肪がたっぷりついたまま妊娠生活を送ることになるでしょう。脂肪がつくと坐骨神経が圧迫されやすくなるため、痛みが引き起こされやすくなってしまいます。
なぜ妊婦全員に坐骨神経痛にならないのか?
妊婦の坐骨神経痛は、さまざまなことから引き起こされています。しかし、骨盤が広がって不安定になったり、お腹が重くなったり、姿勢が悪くなったり、血液量や脂肪が増えたりするのは、どの妊婦にも現れるものです。それなのに、どうして坐骨神経痛は妊婦全員に起こらないのでしょうか。
ストレスの影響が影響している?
坐骨神経痛は、さまざまな原因により引き起こされていますが、実は詳しいメカニズムはわかっていません。同じように坐骨神経が圧迫されたり刺激されたりしている場合でも、坐骨神経痛の痛みが出る場合と、出ない場合があるからです。
圧迫されている範囲や刺激の種類など、細かくみていくと違いはありますが、ひとつ言えるのは、坐骨神経痛が出る人ほどストレスを感じていることが多いということです。
妊娠中は、身体が思うように動かないことも多く、ホルモンバランスが崩れるため、ちょっとしたことですぐにイライラしてしまうことが多くなります。妊娠中のストレスがうまく発散できないままでいると、身体が過敏になり坐骨神経痛を感じやすくしてしまうと考えられているのです。
妊娠後期になると、お腹が大きくなって坐骨神経痛が圧迫されやすくなりますが、それと同時に出産への不安感が増えてマタニティブルーに陥りやすい時期でもあるため、坐骨神経痛が増えやすいと言われています。
坐骨神経痛が発生すると、さらにイライラが増幅してストレスが溜まり、悪循環に陥りやすくなってしまいますので、早めに断ち切る必要があるでしょう。
妊婦の坐骨神経痛の対処方法は?
妊婦の坐骨神経痛は、さまざまなことから引き起こされています。では、実際に坐骨神経痛が起きたらどのように対処したらよいのでしょうか。
楽な体勢を見つけよう
坐骨神経痛が起きたときは、まず無理をせず楽な姿勢を取るようにしましょう。無理にストレッチをして刺激すると、さらに痛みが増幅してしまう可能性があるからです。楽な姿勢でしばらく過ごし、痛みが完全に引いてから対処するようにしてください。
寝る姿勢においては、比較的横向きが楽になりやすいので試してみてください。横向きになることでお腹の圧迫感が少なくなり、骨盤に血液が巡りやすくなります。特に妊婦は、左側を下にして横になると安定しやすいですし身体もラクに感じるので、その姿勢を取るようにしましょう。
身体を温めよう
坐骨神経痛が起きるということは、筋肉が固まり血液の流れが滞っている可能性が高いと言えます。そのため、冷えたままの身体では再び坐骨神経痛が起きやすくなってしまいますので、お風呂に入って身体を温めるようにしましょう。
妊娠すると、身体を安静にしようと身体を動かす機会が減るため、どうしても筋肉が硬くなったり血液循環が悪くなったりしやすくなります。また、じっとしていることで身体も冷えやすくなるので、坐骨神経痛が起きないようこまめに暖房を使い身体を冷やさないようにしましょう。
ストレッチでほぐそう
坐骨神経痛の対処方法として、ストレッチを行うのもオススメです。できれば、お風呂に入って身体が温まっている状態で行うと良いでしょう。
座った状態で脚を開脚し、上半身を片脚のつま先に向けて倒していきます。すると、太ももの裏から足先にかけての筋肉がストレッチされているのを感じることができます。ゆっくりと無理をせずにストレッチを行い、もう片方の脚もストレッチしていきましょう。
また、仰向けの状態で両足の裏を合掌させ、膝を上下にバウンドさせて股関節をストレッチするのもオススメです。ただ、行っている最中に腰に痛みが出る場合は、反動を弱めたり、膝を伸ばして角度を緩めたりするようにしましょう。
ツボで対処する
坐骨神経痛の対処方法として、ツボを刺激するのもオススメです。委中と承扶と呼ばれるツボが坐骨神経痛に効果的なので、ご紹介しておきましょう。
委中のツボ
委中は、膝の裏側の真ん中あたりにあるツボです。両手の親指を使い、グッと押し込むように30秒ほど刺激し続けましょう。即効性があるため、坐骨神経痛が起きているときに試して押してみるのもオススメです。
ただし、場合によっては刺激になって坐骨神経痛が悪化してしまう可能性もあるため、最初は軽めに押して様子を見るようにしましょう。
承扶のツボ
承扶は、お尻と太ももの付け根の裏の境目にあるツボです。両手の親指を使い、グッと押し込むように30秒ほど刺激し続けましょう。坐骨神経痛が腰~お尻にかけて出ている方は、承扶のツボがオススメです。お風呂に入っている時や、入浴後の身体が温まっている時に刺激すると、より効果的でしょう。
ベルトで安定
坐骨神経痛の対処方法として、ベルトを使用して骨盤を安定させるという方法もオススメです。坐骨神経痛は、骨盤が不安定になったり、お腹の重みで姿勢が悪くなったりすることから引き起こされるため、ベルトで安定させることでそれらの原因を解消することができます。
ベルトにはさまざまな種類があるので、つけてみて使用感の良いものを選ぶようにしましょう。また、ベルトが合わない方は、ガードルなど骨盤を安定させやすい矯正下着を使ってみるのも良いでしょう。
坐骨神経痛で臨月~出産のリスク
妊娠中は、坐骨神経痛が起きやすくなります。痛みが出ていると辛くなりますが、人によってはガマンできたり、時々しか起こらなかったりすることから、軽視している方もいらっしゃるでしょう。
しかし、坐骨神経痛はできるだけ早く対処して治すことが必要になります。なぜなら、坐骨神経痛を患ったまま出産に挑むのはリスクがあるからです。
出産のいきみと坐骨神経痛の関係
自然分娩で出産する場合、全身の力を使っていきみ、赤ちゃんを外に出していかなくてはなりません。しかし、坐骨神経痛があると痛みがジャマになり、いきむ力が入らないため、赤ちゃんが出て来ることができなくなってしまいます。その結果、帝王切開を余儀なくされてしまうこともあるでしょう。
そのため、できるだけ自然分娩を目指したいという方は、早めに坐骨神経痛を治せるよう対処していくようにしてください。
産後の坐骨神経痛
妊娠中はなんともなかったのに、産後になって突然坐骨神経痛が発生し痛みに悩まされる方も多いです。出産近くなるとリラキシンというホルモンが分泌されて、関節や靭帯が緩むのをご存知の方も多いと思われますが、このホルモン分泌がと止まって関節・靭帯が元の戻るまで数ヶ月程度かかると言われています。
その間に育児のストレスや睡眠不足・筋肉低下・姿勢の崩れなどが重なって痛みが発症・悪化しやすくなるのです。幸い、妊娠中とは異なり投薬治療やマッサージなどで行えますので、我慢せずに出産した産婦人科や専門医に相談、受診してください。
薬を使用できないからこそ早めの対策を
妊娠中の坐骨神経痛は、人によってはどんどん悪化してしまうこともあります。坐骨神経痛がひどいと、立っていることも座っていることも困難になりますし、麻痺して思うように身体を動かせなくなってしまうこともあります。
しかし、どれだけ痛みが強くても妊娠中は鎮痛剤などの薬を使用することができません。そのため、坐骨神経痛が悪化する前に早めに処置をする必要があるのです。
ここまでのまとめ
妊婦の坐骨神経痛について詳しくご紹介しました。坐骨神経痛はさまざまな原因により引き起こされていることが、お分かりいただけたと思います。
坐骨神経痛は早めに治しておかないと、出産するときに坐骨神経痛があると力が入らなくなってしまいますし、症状が悪化しても薬を使用できないため辛い思いをすることになります。さまざまな対処方法がありますが、なかなか治らない時は早めに医者に相談し、対処方法を探っていくようにしましょう。
妊婦の坐骨神経痛は、赤ちゃんが成長し身体が大きく変化している証拠でもあります。早めに治して穏やかな気持ちで、妊娠中の赤ちゃんの成長を見守れるようにしていってください。