妊娠中の妊婦さんには、たくさんの制限がかけられます。特に妊娠初期にはさまざまな症状が出るため、激しいスポーツは控えるように、安静にしてストレスをためないようにと言われることも多いでしょう。しかし、さまざまな制限の中で、食べ物の制限には辛いものがあります。
よく「妊婦は寿司を食べないほうが良い」と言われますが、理由を知らなくては納得できずストレスも溜まってしまいます。年末年始や祝いごとなどが重なると、お寿司に出会う機会も増えてきます。そこで、妊婦がお寿司を避けるべき理由と、安心して食べられる寿司ネタについてご紹介します。
食中毒の問題
妊婦のあいだは、お寿司を食べない方が良いというのが定説です。では、なぜお寿司を食べるべきではないのでしょうか。それはまず、食中毒が関係しています。
お寿司のネタは生魚を使用していることがほとんどです。生魚には多少なりとも細菌が含まれているもので、中でもリステリア菌は激しい食中毒を引き起こします。通常なら問題ないレベルの量であっても、妊婦にとっては大きな問題となるのです。
妊娠中の免疫低下
妊婦さんは、平常時よりも免疫力が下がりがちです。このことから、普段なら全く問題のない食べ物に食中毒を起こしてしまいます。生魚に付着しているリステリア菌は、衛生管理の行き届いた日本では滅多に発生しない食中毒のひとつです。
しかし、一度感染すると激しい食中毒を引き起こしてしまうため、万が一感染すると母体だけでなく胎児にも影響してしまいます。このことから、妊婦はお寿司をできるだけ食べない方が良いと言われているのです。
妊婦は感染したら治療できない?!
暑い時期だけでなく一年中、寄生虫やウイルスによるお寿司の食中毒に注意が必要です。大抵これらには高熱・嘔吐・下痢・などの症状がありますが、一番やっかいなのが妊婦は食中毒や寄生虫に対しての処置ができない事です。
通常は一定期間の抗生剤投与による治療が行われますが、妊娠2ヶ月目から出産直前までは薬に対する過敏期が続いている為、特に強い効き目を持つ抗生剤などは胎児への悪影響を考慮して服用できません。
また、母体の熱で羊水の温度も高くなったり、嘔吐・下痢で体内の水分が減少すれば羊水も充分量を確保できなくなってしまう可能性が高くなります。食中毒を処置しないまま数日間耐えるのは非常につらいので、お寿司を食べる際にはその事実もしっかり頭に入れておきましょう。
糖質過剰になりやすい
お寿司は魚に含まれる以外の脂質がないので洋食よりは低カロリーに見えますが、それよりも妊娠中の方が気をつけなければならないのは炭水化物の量です。お寿司は10~12貫で一人前ですが使用されるご飯の量は220gです。
ご飯茶碗一杯で約140gなので、1.4倍多いのが分かりますね。それに加えて寿司酢には砂糖が必須で、一人前に7g強含まれているので、一食なのに炭水化物の量が非常に多く、タンパク質以外のビタミン・ミネラルが少ない印象を受けます。
妊娠中は皮下脂肪が付きやすいので、その元となる炭水化物が多いお寿司は食べる量を半量抑える必要があり、特に糖尿病や太りすぎを指摘されている方は更に制限する必要があるでしょう。
生魚の水銀問題
妊婦がお寿司を食べない方が良いのは、食中毒を避けるためだけではありません。魚の種類よっては、食物連鎖の関係から水銀が含まれている場合があります。
この水銀は、微量であっても蓄積され続けることで胎児に重大な影響を及ぼします。特に神経系に影響するとされており、生まれてきてから音に対する反応が通常より遅れがちになることが報告されています。
水銀を多く含む魚は?
妊婦にとって水銀を含む魚は生魚の状態でなくても避けるべきです。では、どのような魚に水銀が含まれているのでしょうか。
金目鯛、メバチマグロ、本マグロ(クロマグロ)、メカジキ、バイガイ、クジラ、イルカ、サメはできるだけ避けるべきです。どうしても食べたいという時は、2日に1貫ほどに押さえておきましょう。お刺身の場合も、1週間に1人前以下にしておくと安心です。
避ける魚は寿命年齢と生息地域
水銀が含まれている魚は避けるように、と妊娠中の方は強く言われているかもしれません。しかし実際にどんな魚かと言われると、人によってバラバラな答えが得られたりもします。避ける魚をチェックするポイントは、深海付近に生息する魚と寿命年齢の長い魚です。
金目鯛やムツの産地では旬になるとお寿司で食べられますが、深海の境目に生息している為、比重の重い水銀含有量の多い魚類です。それから寿司ネタになるミナミマグロやクロマグロの平均寿命は20年と比較的長いため、その分水銀も身体に蓄積しやすいのです。
注意すべき魚とは?
また、金目鯛ほどではありませんが、気にしておくべき魚もあります。
キダイ、マカジキ、ミナミマグロ(インドマグロ)、ユメカサゴも、微量の水銀が含まれていますので注意しましょう。こちらは、1日に1貫、1週間に2人前以下にしておくと安心です。
食べて良い魚(食べ過ぎは注意)
水銀ばかり気にしていては、お寿司そのものを楽しむことができません。食中毒を注意しつつ、水銀を気にしない魚も知りたいですよね。安心して食べられるお魚としては、キハダ、カツオ、タイ、ビンナガ、メジマグロ、サケ(サーモン)、ブリがあります。DHA豊富な青魚だと、アジ、サバ、イワシ、サンマが良いでしょう。
ただし、食べても良いといっても食中毒の危険性がありますので、食べ過ぎには注意してください。
調理済みのネタ
食中毒が心配という方は、調理済みのネタを選ぶのもひとつの方法です。ボイルしたエビや、玉子、穴子などが良いでしょう。
牡蠣や貝類もボイルしていれば一見大丈夫そうに思いますが、貝類はノロウィルスの危険性もあるため、できれば避けておいたほうが安心です。
その他妊婦が避けるべき食べ物
生肉やジビエは更に注意が必要
生が怖いのは魚だけではありません。馬・鳥刺しやレバ刺しなど新鮮な生肉を置いているお店もありますが、魚以上に寄生虫や食中毒にかかる可能性が高いです。妊娠中はあらゆる菌が体内に侵入しやすい状態になっていますから、徹底して避ける必要があります。そして最近ジビエが原因のE型肝炎が問題になっています。
ジビエは野生動物の肉を使ったフランス料理ですが、品質管理等されていない為加熱が不十分な場合はE型肝炎ウイルスに感染する恐れがあります。このE型は妊婦の劇症肝炎と死亡率の高さが特徴なので、あらゆる野生動物を使った料理は生でなくとも避けましょう。
チーズは注意を
妊婦が避けるべき食べ物は、お寿司の他にもあります。意外と見落としがちなのが、チーズです。
特に柔らかめのチーズは加熱殺菌されていないため、感染する可能性が高いと言えます。また、ブルーチーズなどもともとカビがびっしりついているものも、感染力が強いためオススメできません。
おやつがわりに食べ、サンドウィッチなどに挟まれていることも多いので、注意するようにしましょう。
基本的に、妊婦は生の食べ物を避けていれば食中毒を避けることができます。どうしてもチーズが食べたいという時は、加熱してピザにし、チーズフォンデュスタイルで頂くようにしましょう。
妊娠発覚前にたくさん食べてしまったら?
食中毒や水銀の影響から、妊婦はお寿司を食べない方が良いとご紹介しましたが、妊娠の発覚が遅くなり、既に何度もお寿司を食べてしまったという方もいらっしゃるでしょう。しかし慌てる必要はありません。
妊娠初期
妊娠初期の4ヶ月目くらいの段階なら、まだ胎盤が完成していないため胎児に水銀が運ばれることはないでしょう。このため、食中毒への感染だけ気をつけられておけば大丈夫です
家で手作りならいいの?
外で食べるお寿司は美味しいけど糖分や塩分が気になる、という方の中には家で手巻き寿司を作れば問題ないと思っている方もいるでしょう。確かに自分で工夫すれば、これらの調味料の量を抑えても充分美味しく出来ます。ただ、準備とネタの衛生面を考えると中々難しいものがあります。
寿司ネタは複数の種類をそれぞれ下ごしらえする必要があるので、妊娠中長い時間立ち働くようになってしまい、後々どっと疲れが出てしまいます。それから店で材料を買い揃えても、季節によっては冷蔵庫に入れただけでは菌の繁殖を抑えられない可能性も考えられます。
目的は寿司飯が食べたい?
妊婦でつわりもひどい状態なのに、お寿司が食べたくて仕方がなく困っている。実は、そんな妊婦さんはたくさんいらっしゃいます。
今までそんなにお寿司が好きではなかったのに、妊娠した途端急にお寿司が食べたくなった場合、寿司飯に食欲をそそられている可能性があります。妊娠すると、すっぱいものやサッパリしたものを好むようになるため、寿司飯の風味が好みにぴったり合うのです。
また、つわり中に気持ち悪くなる食べ物として、炊きたてのご飯の匂いがよく取り上げられます。しかし、寿司飯は覚ましていますしお酢の香りで匂いも気になりません。
このことから、妊婦がお寿司を食べたくなるのでしょう。このような場合は、すし酢を混ぜるだけで気持ちが満たされます。納豆やお新香を加えて巻き寿司にすれば、食中毒や水銀を気にせず美味しくいただくことができるでしょう。
酢飯の食べ過ぎは塩分に注意
糖分だけではなく、お寿司に含まれる塩分にも気をつける必要があります。お寿司には寿司酢に使われる塩だけでなく、しょうゆが大きなポイントで、普通お寿司一人前に使用するしょうゆは7g(小さじ1杯強)なのですが、その分量に含まれる塩分は約1・5gです。
寿司酢に使われる塩は1.4gなので、併せて3g近くを一食で摂ってしまう計算になります。厚生省が定めた新しいナトリウム摂取量は女性が1日7g未満となっているので、お寿司を食べた場合は他の食事の塩分をしっかり把握する必要があります。特に妊娠高血圧症行群の疑いがある方やむくみが酷い方は、特に注意した方が良いです。
年末年始やお祝いごとに注意
妊婦はお寿司を食べない方が良いとわかっていても、年末年始や祝いごとが重なると、どうしてもお寿司がズラリと並ぶときがあるでしょう。
その時は、できるだけ安全なネタを選んで食べるようにしてください。また、食中毒が不安という方は、ショウガやワサビなどの薬味をとるようにしてください。薬味には殺菌作用があるため、万が一微量の細菌が付着していても、口の中で制することができます。
お酒にも注意
お寿司やお刺身など、美味しい食べ物がズラリと並ぶと、ついついお酒が飲みたくなるもの。しかし、妊婦はアルコールを飲むべきではありません。
微量でも、胎盤を通じてダイレクトにアルコールが胎児にいってしまいます。妊娠初期の段階でアルコールが胎児へ入ってしまうと、発育が遅れたり、生まれてから知能が遅れたり、行動障害を起こす危険性があります。
どうしても飲みたいという時は、ノンアルコールのお酒やジュースなどで代用するようにしましょう。
周りにも知らせておきましょう
残念な事に、妊娠中の方はお寿司を食べるべきかどうか悩んでいる事を周りは理解していません。おそらく周りの年配の女性ですら、自分の経験から問題ないと言ってしまう方もいるでしょう。
下手をすれば、つわりの時期や妊娠後期にお腹が大きくなって動きづらくなると、パートナーは知らずにお寿司をテイクアウトしてくるかもしれません。
妊娠中は感情が不安定になりやすいのに、そんな些細な事でイラついたり喧嘩になっては赤ちゃんのために良くないので、妊娠が分かった時からしっかりと周囲には伝えておきましょう。もし、それでも理解してくれない場合は一緒に健診に連れて行き、医師の口からお寿司を食べる際の注意点をアドバイスしてもらうのも良いでしょう。
ここまでのまとめ
妊婦がお寿司を避けるべき理由についてご紹介しました。水銀の関係から、避けるべきお寿司のネタはたくさんあります。しかし、それ以外のネタなら、少量であれば美味しく食べることができるでしょう。
妊娠中は、今までとは違った身体となりますので、安易に過信して無理をすることはやめましょう。どうしてもお寿司が食べたいという時は、体調を整えて、万全の状態で挑むようにしてください。そして、お寿司を食べたあとは、しばらく期間を開けることも忘れないようにしましょう。
妊婦生活は色々と制限がつきものですが、妊娠をきっかけにたくさんのことを学ぶことができるはずです。ひとつひとつ知識を増やし、安全に安心して妊婦ライフを楽しんでいけるようにしましょう。妊婦ライフを楽しむことができれば、健やかで元気な赤ちゃんと出会うことができます。