ますます増える高齢出産を背景に、胎児の出生前診断を受ける妊婦さんの数も増えています。出生前診断とは、胎児に染色体異常や重大な病気や異常がないかどうかを検査することを指します。
高齢妊娠では染色体異常のリスクが高まります。胎児の染色体異常をあらかじめ診断することに関しては、さまざまな見解があり、診断結果が陽性と出たらどうするかに関しても見解は分かれます。
出生前診断に関しては倫理的な観点から、これに反対する人も大勢います。反対に、出生前診断を行うことにより、たとえ生まれている赤ちゃんに染色体異常があるとしても、それを事前に知り、いろいろと準備が出来るというメリットがあるとする人も大勢います。
あなたなら受ける?受けない?出生前診断について知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介します。
出生前診断とは?
出生前診断とは赤ちゃんの誕生前に異常がないかどうか調べる検査ということになります。出生前診断にはさまざまな方法があり、超音波検査やMRI検査なども出生前診断の一つといえます。
これらに加えて、もう一つ母体血液マーカー検査という方法もありますが、これらの方法は行うに際して、胎児に対するリスクはないといわれています。
出生前診断には他に羊水検査や絨毛検査、そしてNIPTと呼ばれる新型主出生前診断があります。出生前診断の目的は、胎児に重大な異常がないかどうか、染色体異常がないかを調べることですが、出生前診断を行うことにはメリットとデメリットがあります。
たとえば羊水検査ではごくわずかですが、流産の可能性もあり、検査を行う前には慎重に考え、その上で決断することが必要です。
出生前診断を勧められる人とは?
赤ちゃんに異常があるかもしれないから出生前診断をしたい、と思っている方もいるでしょう。しかし、どの病院も希望者全員に行うわけではありません。定期健診で異常が見られない時は、妊婦さんが出生前診断を望んでも却下されてしまうでしょう。
反対に出生前診断を勧められる方は、まず36歳以上の高齢出産の方が挙げられますが、これは流産や染色体異常の可能性が高いからという理由からです。
また、流産を繰り返す不育症の方が妊娠した場合も、これまでの不育症の原因を考えて染色体に異常がないかを調べるよう出生前診断を勧められます。もし出生診断を勧められても、必ずしも赤ちゃんに異常があるわけではありませんから、ご夫婦でよく考えて決めてください。
出生前診断の種類について
出生前診断には主に五つの方法、①超音波検査、②母体血清マーカー検査、③羊水検査、④絨毛検査、そして⑤新型出生前診断(NIPT)があります。
出生前診断を行う時期は、妊娠9週目から24週目にかけてですが、それぞれの検査法により受けられる時期が決まっています。
出生前診断の費用
費用に関してですが、これもそれぞれの検査法により異なり、母体血清マーカー検査のように1万円から2万円程度のものから、20万円程度かかる新型出生前診断まで、かなりの違いがあります。
もっとも経済的なのは、母体血清マーカー検査ですが、この検査で陽性と出た場合、最終的に羊水検査を受ける必要がありますので、実際にはもう少し費用がかかると思って間違いありません。
母体血清マーカー検査とは?
母体血清マーカー検査とは、妊婦さんの血液を採取することにより行われますので、胎児に対するリスクはありません。
費用は約1万円から2万円と、他の出生前診断よりも安価ですが、この検査はあくまでも可能性を示唆するだけで、陽性と出た場合はさらに羊水検査を受けるかどうか決めなければなりません。
検査を行うことの出来る時期は、妊娠15週目から21週目になりますが、そのあと羊水検査を受けることを見越すと、妊娠17週以前に検査を受けることが必要になります。結果が出るまでにかかる日数は10日程度になります。
羊水検査とは?
羊水検査のいちばんの問題点はわずかですが流産の起きる可能性があることです。おなかに針を刺し、羊水を採取して、染色体の数および構造の異常を検査します。
羊水検査はリスクを伴うことから、母体血清マーカー検査や新型出生前診断の結果陽性が出た場合の確定検査として行われることが一般的です。
費用は12万円から15万円程度、検査の受けられる時期は妊娠15週から18週になります。
絨毛検査とは?
絨毛検査は妊娠10週から14週目までに行われる検査で、絨毛を取り出した上で、胎児細胞を培養し、染色体の数や構造を調べます。
絨毛検査で分かるのは、ダウン症やエドワード症候群、無脳症や二分脊椎などの開放系神経管奇形です。羊水検査よりも早い時期に検査することができるのも特徴のひとつです。
絨毛検査の費用は検査内容により、8万円から20万円程度かかります。リスクに関しては流産、破水、感染など、羊水検査と同程度のリスクがあります。
胎児超音波スクリーニング検査とは
超音波検査は定期健診で必ず行われますが、これとは別にもっと詳細に時間をかけて行われる超音波検査のことで、胎児スクリーニング、胎児精密超音波検査という別名で呼ばれることもあります。
超音波検査で分かることはたくさんあり、脳、心臓、脊椎などの器官に異常があるかどうか、染色体異常の可能性があるかどうかなどの診断も行われます。
費用に関しては1万円から3万円程度、胎児超音波検査の目的は早産の恐れがないかの観察。またなんらかの異常がある場合、出生後すぐに適切な治療を始められるように備えることも目的の一つです。
新型出生前診断とは?
新型出生前診断とは妊婦さんの血液を採取して行われる検査で、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーの診断が可能です。検査できる期間は妊娠10週目以降18週目まで、費用に関しては約20万円程度かかります。
血液を採取するだけの新型出生前診断は、胎児に対するリスクがなく、この検査で陰性と出た場合それ以上の検査を行う必要はありません。陽性と出た場合は羊水検査を行うことになります。
新型出生前診断を受けるにはいくつかの条件を満たさなければなりません。年齢が35歳以上であること、過去に染色体異常のある子供を産んだことがあること、自分あるいは配偶者が染色体転座保因者であること、など、母体血清マーカー検査や超音波検査などにより、染色体異常これらの条件を満たしていなければ検査を受けることが出来ません。
新型出生前診断を希望する妊婦さんは、まずは検査を実施している病院で詳しい案内を得るようにしましょう。
出生前診断を受ける前に
どのような理由で出生前診断を受けるにしろ、実際に検査を受ける前には一時の感情だけでなく、パートナーや家族と一緒によく考えてから決断するようにしましょう。
出生前診断前にはカウンセリングを受けることが必要です。胎児の遺伝子に関する専門的な知識を備えた医師やカウンセラーと話しをし、なぜ出生前診断ょを受けるのか、検査結果を聞いてどうしたいのかなど、自分の気持ちを固めてから検査を受けるようにしましょう。
また出生前診断を受ける際には、インフォームドコンセントに関する説明を受けなければなりません。
出生前診断で分かること
出生前診断を行うことにより、胎児の異常のすべてが分かると勘違いしている方もいるようですが、出生前診断で分かるのはダウン症やエドワード症候群、無脳症、水頭症、その他形態異常など。視覚や聴覚異常などに関しては、出生前診断では診断できません。
また出生前診断の種類により、どんな異常を診断できるか異なりますので、出生前診断を受ける際にはそれぞれの検査法の特徴についてよく調べるようにしましょう。
検査法によっては診断で分かるのは確率だけで、最終的には羊水検査を行わなければならないものもあります。
染色体異常とは?
人間の体には23対46本の染色体があります。染色体異常とはなんらかの理由により、通常の染色体とは異なる構造をしていたり、染色体の数が異なる場合を指します。
ダウン症の染色体は23対のうち21番目の染色体の数が一本多く、21トリソミーと呼ばれています。
また成長障害や心疾患などの症状があらわれるエドワード症候群は、18番目の染色体が一本多く、「18トリソミー」と呼ばれています。13トリソミーとはパトー症候群に特徴的な染色体異常で、エドワード症候群同様、赤ちゃんが一年以内に死亡する確率が非常に高い症候になります。
出生前診断では分からない病気
出生前診断では主に染色体異常や外見の異常を診断しますが、出生後数年経ってからわかる異常については診断できません。代表的なものが広汎性発達障害で、自閉症・アスペルガー・学習障害・多動性障害が含まれますが、生まれてから7歳までの間に症状が現れると言われています。
出生前診断を受けたから生まれた後も問題は起こらない、と考えてしまいますが、これらの遺伝とは関係の少ない障害に関しては他の妊婦さんと同様の可能性があります。
また、すべて順調に進んでいる妊婦さんでも、分娩中に異常が発生し赤ちゃんに障害が残るというケースもありますので、赤ちゃんが生まれるまでは何があるか分からないと心に銘じておきましょう。
出生前診断を行うデメリット
出生前診断を行うことにはメリットとデメリットがあります。出生前診断の精度は必ずしも100%ではないことはデメリットの一つです。
陰性と出た場合、ダウン症やエドワード症候群のような染色体異常の可能性はないことが分かりますが、出生前診断で知ることの出来る異常はきわめて限られています。実際に赤ちゃんの異常のほとんどが、出生後にならなければ分からないことを理解しておきましょう。
出生前診断を行うメリット
デメリットもありますが、もちろん出生前診断にはメリットもあります。胎児に異常があるのではないかということが気になり、精神的に不安定になるよりは、出生前診断を受けて、陰性か陽性かを知るほうがよいかもしれません。
出生前診断はその種類により、それぞれ特徴があります。たとえば新型出生前診断であれば、血液検査を受けるだけで陰性か陽性か出ますので、陰性とでた場合にはそれ以上の検査をする必要がなく、流産というリスクのある羊水検査を受ける必要がありません。
出生前診断の問題点
出生前診断を行うことの関しては、賛成意見と反対意見の両方があります。出生前診断を行い、染色体異常があると診断された場合、人口妊娠中絶を選ぶ方もいます。出生前診断に反対の立場からすると、これは優性思想であり、倫理的な問題があるとされます。
また出生前診断の結果はあくまでも可能性であり、診断結果は必ずしも100%確実ではない場合もあります。そのため、診断結果をもとにどのような決断をするかに関して、きめ細かいカウンセリングが必要なことが指摘されています。
出生前診断と中絶手術
羊水検査でダウン症と診断された方の多くは人工妊娠中絶を選択するといわれています。高齢出産の件数が増える中、中絶手術も確実に増えているとされるのはこのせいです。
中絶手術を受けることが許されているのは妊娠21週目までですので、出生前診断の結果次第では人工妊娠中絶を受けることも考えざるを得ないという方は、その点を考慮に入れて出生前診断を受けるようにしなければなりません。
出生前診断を行える病院
出生前診断はどの病院でも行っているわけではありません。また各病院ごとに行っている出生前診断の種類に違いがありますので、どの診断を行いたいかをまず決めなければなりません。
また出生前診断を受ける際に、かかりつけの産婦人科医からの紹介状が必要な検査もありますので、まずは出生前診断を行っている病院に問い合わせるようにしましょう。
高齢出産と出生前診断
出生前診断を行う人が最近顕著に増加している背景は、高齢出産の件数が増加していることにあります。
高齢出産では胎児の先天的異常の発症率が他の年齢層よりも若干高いため、妊娠したものの、おなかの赤ちゃんにダウン症などの異常がないかどうか、どうしても不安に感じてしまい、出生前診断を行う方が増えているのがその理由です。
高齢出産のリスクについて
35歳以上の高齢出産にはさまざまなリスクが伴います。高齢出産は、流産や早産に加えて、妊娠高血圧症候群などの症状を発症しやすいともいわれています。
またダウン症やその他の染色体異常など、先天異常の発症率も35歳以上の高齢出産で高くなってきます。
ダウン症の赤ちゃんが生まれる割合は、年間出産件数を1000例とすると、そのうち1例ですが、母親が35歳以上の場合はこれが約400例に1例、40歳以上になると約100例につき1例というように、ダウン症の発症率は母親の年齢とともに上がっていきます。
出生前診断を受けるかどうかの決断
出生前診断を受ければ当たり前ですが、結果を知ることになります。結果が出るまでには10日から二週間程度の時間がかかり、陰性・陽性どちらの結果が出るか、ただひたすら待つのは辛いものです。
結果が陰性と分かればとりあえず不安は解消されますが、診断結果の精度100%正しいということはありえません。また陽性と出た場合、流産のリスクのある羊水検査を受けるかどうかの決断を迫られることになります。
出生前診断を受ける前には必ず配偶者とよく相談し、自分の決断に納得してから行うようにしなければ、後々後悔してしまうことになりかねません。
まとめ
出生前診断に関して、出生前診断の目的や方法、費用やメリット・デメリットについて、知っておきたいさまざまな情報をご紹介しました。