妊娠中の痔(いぼ痔・切れ痔・痔ろう)について知っておきたいこと

妊娠中

妊娠中は、人に言えない隠れた悩みがたくさんあります。人に聞きたいけれど恥ずかしくて聞けない、自分が他の妊婦と違っているかもしれないから言えない、と1人で悩んでしまう妊婦さんが多いですよね。妊娠から出産にいたるまで一人一人違うので、余計に自分だけかと思ってしまいがちです。

例えば膀胱炎や性感染症など恥ずかしくて言えない悩みは色々ありますが、最も言いづらいのは痔ではないでしょうか。

通常ならば痔持ちだったとしても、あまり言いふらす類のものではないので、もしかしたら自分だけかもしれないと思ってしまいますが、妊娠中に痔持ちになる方は実を言えば結構多いのです。妊娠中の方は多少なりとも痔持ちである、またはなりかけであると考えてよいでしょう。

しかし多いからと言っても安心は出来ず、なるべく予防を徹底して妊娠中の大変さや産後の忙しさを煩わせるような事はしたくないと思っている方も多いはず。そんな意外と妊娠中や産後に多い痔について知っておきたいことをいくつかご紹介します。

どんな痔になりやすいのか?

痔はいぼ痔・切れ痔・痔ろうの3種類に分けられます。いぼ痔は肛門内にある血管がうっ血していぼのように膨らんでしまう状態で、出来る場所によって更に内痔核と外痔核に分けられます。

切れ痔

切れ痔

切れ痔は直腸粘膜と肛門の間にある皮膚に傷がつき切れてしまった状態です。

痔ろう

痔ろう

痔ろうは大腸菌が肛門腺に入り込んでしまい膿がたまってトンネルを作ってしまう状態を言います。

いぼ痔

いぼ痔

いぼ痔は患者全体の8割を占めていて切れ痔は子供でもなりやすく、痔ろうは男性に多いと言われていますが、その中でも妊娠中・産後になりやすいのはいぼ痔と切れ痔です。

もし妊娠中に痔にならなかったとしても、産後のバタバタの中で痔になってしまう事があります。妊娠中の体調の悪さや産後の忙しさなど、病院への受診をためらっている間に痔の状態が酷くなって、外科手術を行ったり入院する羽目にもなりかねません。

妊娠中は痔になりやすい

妊娠中はどのくらいの確率で痔になるのか

痔は世界中に患者がいる病気ですが、日本人の場合は成人の3割が罹ると言われています。昔はここまでの数字ではありませんでしたが、生活スタイル・食習慣の変化や運動不足などがこの3人に1人という数字に変化したのでしょう。なので、妊娠する前から元々痔持ちだったという女性が多くても不思議ではありません。

妊娠すると痔になりやすい、とよく言われていますが確かに妊娠中に痔になる方は非常に多いです。元々痔になった事がある人が妊娠中に痔を再発するのは良くあることですが、今まで全く関係のなかった人が妊娠しただけで痔になる確率が急上昇するのは驚きです。

妊娠中に痔になる原因

妊娠中に痔になる原因

患者の中で最も多いいぼ痔の原因はうっ血です。肛門周囲には静脈叢と呼ばれる毛細血管が集まり網の目のようになっているのですが、毛細血管であるがゆえに1日デスクワークだったり冷え性だったりするとあっという間に血流が止まって瘤状、つまりいぼになり内痔核がトイレの時に一緒に飛び出してくるようになり、ひどい場合は出血を起こします。

妊娠中も同様の事が言えますが、直腸のすぐ前にある子宮がだんだん大きくなり直腸を圧迫するので、いくら痔の防止に運動して血行を良くしても妊娠後期になるにつれて症状が進んでしまうのです。

また、子宮で直腸が圧迫される事により便秘にもなりやすくついついトイレでいきんでしまいがちですが、そのいきみで血行が悪くなりいぼ痔になる可能性が高くなります。また便秘で硬くなった便を無理やり出そうとすると、肛門内部の皮膚が切れて切れ痔となり、出血も起きやすくなります。

産後に痔になる原因

産後に痔になる原因

妊娠中、痔にならなかったからと安心するのはまだ早いです。出産後になって初めて痔になったという方もとても多いですから。

産後、痔になる原因は出産時のいきみが多いです。出産する時のいきみは、トイレで行うのとは違って回数も多く全力でしますよね。短時間での大きな腹圧はいぼ痔になる可能性を増やしてしまうのです。

もう1つの大きな原因は腹筋の弱さで、妊娠中はどうしてもお腹をかばう姿勢や行動を取って腹筋を使わずにいるため、普段よりも腹筋が弱くなっています。

便を押し出すためには腹筋が必要になりますが、出産後はこのように腹筋が弱く妊娠中と変わらない便秘状態のままでいるので、痔になる可能性は妊娠時と同じく高いのです。出産したからすぐ便秘も治る、というわけではない事を注意しましょう。

放置しておくと悪化する可能性がある

放置しておくと悪化する可能性がある

痔の治療はまず医者に患部を見せる事から始まりますが、それが恥ずかしいからと痔になっても行かないままで、市販薬のみに頼っている方も非常に多いです。それで完璧に治るのなら良いのですが、痔の治療には薬とともに食生活の改善も必要になります。

食生活はそのままで薬だけに頼ると再発する事が多く、治療と再発を繰り返すと慢性の痔となって最後には外科手術を行わなければいけない事態になってしまうケースも多いです。

また怖いのは、便に血がつく・残便感が残るなど、痔と大腸がんの症状はとてもよく似ている事。大腸がんは自覚症状が表れないため、いつもの痔だと思って自分で治療したり放っておけば、大腸がんの進行が進み取り返しのつかない事になる可能性だってあります。

妊娠中の痔の治療方法

妊娠中になりやすい痔はいぼ痔と切れ痔と述べましたが、早く医者に見せれば見せるほど症状は軽くてすみます。恥ずかしくても、赤ちゃんのためと割り切って頑張りましょう。

痔の治療法には主に軟膏・座薬・内服薬の3種あります。軟膏と座薬で患部の炎症や出血・痛みを抑え、内服薬は便を柔らかくさせて肛門内部の皮膚を傷つけないようにするために用います。痔の治療はどちらか片方だけ行っても効果は出ず、両方を同時に行うのがポイント。

病院で相談すべきです

病院で相談すべきです

病院に行かず市販薬で治そうと思っている方もいるのでしょうが、妊娠中の場合は万が一を考えて避けた方がベストです。市販されているものですから妊婦を含めた万人に副作用無く効果を出すように作っているので、妊婦に向けての特別な注意書きは無いものがほとんどです。

またこれは病院で処方される医薬品も同様なのですが、効果を更に引き出すためにステロイドが含まれている製品がかなりあります。赤ちゃんには影響のない範囲とはいっても、やはり心配なお母さんは多いはず。気になるのなら病院で先生に薬の成分を聞いたりしてみてください。

出産時は前もって医師に伝えましょう

出産時は前もって医師に伝えましょう

恥ずかしいかもしれませんが、痔になってしまった場合は医師に伝えておきましょう。妊婦の多くが痔になるのですから、それを聴いても医師はなんとも思いません。なぜ伝える必要があるかというと、出産時に痔が酷くなる可能性があるからです。

出産は必ずいきみを伴いますが、その急激な腹圧で更にうっ血してしまい、いぼが大きくなってしまう事も考えられます。前もって伝えておけば、出産でいきむ時に肛門を指やボール・クッションを使って押し、いぼが飛び出して酷くならないように対応してくれます。

この対応があるかないかでは産後の痔の状態がまったく異なりますから、きちんと伝えておくべきです。

日常生活の痔の予防法

痔の予防にはうっ血を改善する事と、腸内環境を改善する事を同時に行う必要があります

運動で予防

運動で予防

一番簡単にすぐ始められるのは、やはり運動です。元々体重コントロールや出産時の体力をつけるために妊娠中でも軽い運動を勧めていますが、それだけでなく血行促進してうっ血を防いだり腸を刺激して便通を起こさせるなど痔にも効果がある、一石四鳥のオールマイティな方法と言えるでしょう。

後期はあまり効果が出ないかもしれませんが、他の方法を合わせてみたらよい結果になる可能性もあります。

食事内容の見直し

食事内容の見直し

また消化に時間のかかる肉・魚・油脂は控えめにして、食物繊維を意識した食事内容に変更するのも大事ですね。食物繊維は豆・穀物の不水溶性食物繊維と、野菜・果物の水溶性食物繊維の2種類に別れていますが、肛門内部の皮膚を傷つけないようにするには、便を柔らかくする水溶性食物繊維を不水溶性食物繊維よりも多く摂るのがポイントです。

痔は温めた方が良い?冷やした方が良い?

痔は温めた方が良い?冷やした方が良い?

患部を温めると血行が促進されて痔の痛みが和らぎますが、痔の種類によっては悪化させる可能性があります。

切れ痔やいぼ痔は、服の上からカイロを当てたり、ゆっくり入浴すれば血行が良くなりうっ血も改善されるので、毎日シャワーではなくお風呂に入るよう指導される方もいるでしょう。

ただ痔ろうの場合は細菌によって炎症を起こし化膿している状態なので、そこを温めてしまえば化膿が広がり症状が更に悪化します。妊娠中に痔ろうになる方は少ないのですが、もし肛門周辺が赤く腫れ上がっているようならば氷などで冷やし、どうしてもダメな場合は妊娠中でも使えるアセトアミノフェン系の鎮痛剤を用います。

洗浄しすぎも注意をしましょう

洗浄しすぎも注意をしましょう

痔になってしまうとトイレットペーパーを使う時更に痛くなる事があるので、温水洗浄を愛用している方も多いです。確かに刺激を与える事なく清潔になりそうですが、あまり使いすぎると逆効果の可能性があるので注意しましょう。

人間の身体には必ず常在菌というものがあり、雑菌が繁殖するのを抑える善玉菌と体に悪さをする悪玉菌に分かれています。これらの常在菌を温水洗浄で徹底的に洗い流してしまうと、雑菌が増殖しやすくなり更なる炎症やかゆみの原因となりかねません。

また、肛門付近は皮膚が柔らかく弱いので、水分が溜まったままだとふやけて弱くなり雑菌の繁殖を増やしてしまうかも。温水洗浄の時間を短くして、最後に水で濡らしたトイレットペーパーで拭くなど、痔の悪化を避けるよう気をつけて下さい。

ここまでのまとめ

軽症の痔ならば市販の薬を用いればすぐ改善しますが、やはり妊娠中や産後で赤ちゃんの距離が近い時にはなるべく薬を使いたくないと思うものです。

まずは予防をしっかり行い、それでも出来てしまった場合はなるべく早いうちに受診しましょう。痛いのを我慢しているような精神状態では、お母さんだけでなく赤ちゃんだって何らかの影響を受けてしまいかねません。特に産後は自分の時間がほとんどなくなり治療を受ける時間もありませんので、早速今日から対策を行いましょう。

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